第3話 呆れ
異世界に来た彩火には行く先など無い。向かう先も
知らない。そんな中出会い、助けたギムレーは牢に囚われていた。そんな事をされる人間がまともとはとても思えない。
(見てくれは清潔で服も上質そうだが…貴族かね?ここまで厳重な拘束をされた囚人だっていうのに、扱いが雑では無い…だとしても、何かをやらかした奴だと考えるのが普通だ……キレていて頭が全く
働かなかったとはいえ、あっさりと出したのは悪手だったか…美人だからって簡単に出しちまった…)
「ひとまず、ここを離れないと…私が運ばれて
来なければ、いずれ別の人間が追ってくるわ。
私を置いていけば…あなただけは逃げられるわ…」
(コイツ…なんのつもりか…?)
「…んだそりゃ、お前は来ねぇのか?」
「…私は
「天女だ…?天の上から降りてきたって訳か?
それとこれに何の関係がある?」
「私の様な天女はね…天から落とされたし神族と、
地上の人間との間に生まれた忌み子。この世界の
神様はケチな性格でね、人間と神の一族が混ざる事は許さないの。だから私は生まれた事が罪となり、神の贄とされる…関わった一族すら、生きる事が
許されないのよ…でも、母さんは憎むべき私を…
愛してくれた…あなたにも、十分過ぎるものを
貰ったのだから…もう思い残す事は無いわ…」
「…成程な…つまり決められたルールだからって
自分の命を蔑ろにされてもいいってのかァ…!?」
「別にいい…あなたは私みたいな世界の敵を
助けてくれたから…嬉しかった…
死ぬ前に、母さんに良い土産話が出来た…」
(…やっぱり、コイツ諦めてやがるな…確かに…
生きるってのはクソッタレな事だが…なんだって
諦める?)
「最初から生きるつもり無しって訳か?」
「…私は…この世界に生きてはいけないから…」
俯く彼女の表情は見えないが…落ちる涙の音は
悲しげに掠れた声に消えていく。
「嘘がヘタクソだな…!まだまだ生きる事への
未練があんだろ…!お前を愛した家族がお前の死を望むと思うか!?あぁ!?」
「それでも…もう…私にはこれしか…」
「俺が何か言える立場では無いと思うけどな…!
今死んだら後悔する事すら出来んぞ…!あの世
なんてあるか分からない概念に縋って生きるのを
諦めんなよ…!お前は生きる力があんだろ!」
「…そんなもの…無いわ…私に力なんて…!」
「ハァ…!!テメェ…!まだ生きてんだろ!?
生きてる事は力なんだよ!自分という存在を感じ、
嬉しいだの悲しいだの感じるだろうがよォ!?
それすら分からないって事なら死んでるだろな…!
お前が死んでたら文句を言ってもいいけどよ…!?
命がある癖に死にてえとか言ってる奴に限って己の命の重さも知らずに発言しやがって死にかけたら
喚いて泣くんだよ!俺はいっつも隣に纏わりついて来てる死から逃げてんだよ!分かるかァ!?」
「…何を…言って…」
「あぁ…!説明しなきゃかよ!!アアァ!クソッ!俺は生きる事すら不自由だったんだよ!病気でもう余命も僅かだった…!本当ならよ、今頃は既に
死んでたんだ…だがよ、ここに来た事で俺はまだ
生きてる…チャンスを掴んだんだ…!ここに
来るまでに色んな方法を試して、何度も…何度も
死にかけたんだ…体の血を大量に抜いたり体に釘を打ったりしたし!山から飛び降りた!こんな必死にならなきゃ…生きていく事すら出来んんのに…!
テメェらは当たり前に生きた上でその命を
捨てんのかァ!?」
ギムレーは彩火の激情の芯に燃え盛る、
[生きる事への執着]を浴びせられる。
「分からない…分からないわ…何故…そうまでして苦しみ…生きようとするの…」
「理由なんざ無ェよ!生きてるんだったら死ぬまで
生きるんだよ!なんで生きる事に理由を求める!?生きてりゃそれでいいんだよ!自分が一番で!
世界の中心で!邪魔する奴が居るんなら全員全て
ぶち殺がして万事解決!不幸を全部捻り潰して!
逃げてばっかの幸福を虫籠に突っ込んでやりゃあ いい人生ってもんだ!生きる事に必死になれりゃ
それでいいだろう!?」
息をすらせずに全ての怒りを彩火は吐き出した…
少しの間、静寂が漂う。
「………馬鹿げてる…」
心底呆れた声でギムレーは吐き捨てる…今までに
聞いたどの声よりも感情の乗った声だった…
涙が拭われた瞳はより紅く輝いている。
「フゥー…なんだ…不満を垂れるくらいには元気になったか?」
「そうね…あなたみたいに自己中心的で…後先
考えないで足掻いている人間の人生なんて…私の
苦悩が馬鹿らしく見えてくるわ…」
「色々と余計だが…まぁ良かったよ…んじゃ…
俺が去ったみたいに、こんな碌でもない世界からは
とっととおさらばしちまおう…」
「…でもまずは逃げ場を見つけないと…人に
変装して町に紛れれば、逃げ場が見つかるだけの
時間は稼げると思うわ…」
「…俺の見た目で変装なんか出来んのかね…?
角生えてるし、首の後ろから針金みてぇな触覚が
出てるし…腕に至っちゃ火山みてぇだぞ?」
「腕と触覚は服とか鎧で隠せばいい…角が生えてる人間は少ないけど、いない訳じゃないわ。だから、角は隠さなくても問題無いわ…」
「そんな雑でいいのか…?まぁ…いいか…」
彩火達は目標の為に歩き始めた…
─────────
「失礼致します…」
人の町にて…数日経った頃には既に、天女の逃亡は皆が知る噂として広まっていた。
「余計な仕事が増えるな…サラ、状況はどうだ?」
書類の山と向き合う男は不満げな表情だ…
「件の森から、破壊し尽くされた死体が三人分…
天女が運ばれていた馬車はもぬけの殻…枷や牢は
見たことも無い力で破壊されていた様です…」
「天女を匿う連中など、背信者かフォートケイブの神追い共くらいだとおもっていたが…奴らの仕業に
しては随分と雑だ…背信者の馬鹿げた意思表示も
無い上、神追いは殺生を嫌う…」
「はい…正にその通りで、現場からネフェリムの
魔力が検出されたんです。魔力の残滓が未だに力を宿していた事からも、生存している可能性が非常に高いかと…」
「面倒事を増やしてくれたものだ…すぐに手配書を刷らなくてはな…」
続く
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