第2話 契り

「あ─た─は───…」


「…あぁ…まずは出してからか…」


助けた所で意味は無いだろうと考えつつも…結局は

変異した腕で牢の扉をこじ開け…少女の枷を壊し、解放した。


「…すまねぇが…応急処置を手伝ってもらっていいかね?」


突然解放された彼女は困惑した顔だったが、何かを察した様な顔で話し始めた…


「あ─た─この─ま─で─は─死─…」


「…死ぬ…やはり…そうか…」


所々が聞こえないが、かろうじて話を理解出来た。

身体の痛みと思考の鈍化は一層強まり、死に

近付いている事が嫌でも分かる…体の異常と傷の

どちらが早く俺を殺すのか…知りたくも無い事だ…



「…─ねぇ─け──や──く─し──い─?」


「…契約って言ったか?」


「契─ば─生きる─こ─が─…」


「延命が…出来るのか?」


「えぇ─私で─い─ら──ても───…」


「その契約…受けよう…!」


「─わ─か──た─でも─対─価──必─要」


「対価…?俺は何も使えるようなものは…」


すると、彼女は俺の目に突き刺さる矢を手に取る…


「…最悪だが…もう治らないだろう…いいぜ…!」


「も──ら──う」


「グアアアァッ…!!!クソォッ…!!」


「が──ま────し─必─要─だ──ら」


「グウゥッ…!!…ウゥオオォ…!!…ハァ…

ハァ……!」


外された矢には突き刺された事で瞳が二つに裂けている。鏡を通さずに自身の目を見る事になろうとは

思ってもいなかった…


「ハァ…!本っ当に…!最悪だ…何でこんなモンが必要になる…!?」


すると少女は自身の手を噛む。


「あ…?」


「飲─で」


「……」


傷ついた箇所から流れ出る血を指して飲めと言ったのだ…互いの一部を分け与える儀式という事なの

だろうか…しかし、対価が釣り合っていない…


「…碌でもない儀式だ…全く…不公平だ…!」


数滴の血液を手に垂らし、口に含む…血液の

柔らかな感覚が舌と喉に伝わった…不思議な事に、不快感は無かった…


「わ──た─し───の──ば──ん」


少女は目玉を持ち上げ、口元に運ぶ…


「あ…?」


目を疑う光景だった…


ぐしゃり、ぐちゃり…


肉が歯に潰される生々しい音…

少女は躊躇う事無く、彩火の眼を喰らう…

小さな咀嚼音が静かな森に響き渡る…

そしてその最中…彼女の口の中で噛み潰され、

裂けた瞳の欠片と一瞬目が合った…


「オイオイ…!?おまっ…正気か…!?」


血の気が引く様子だ…だが…その光景は狂気に

満ちていた…だがその姿はどこか美しく見え、

彩火は目が離せなかった。



「………これで…儀式は終わりよ。」


「…頭がおかしいんじゃねェのか…?お前…」


「お互い様でしょ?」


「…?」


「三人を殺した所を見えたからね…」


「フン…温情をかけてやったのにそれに唾吐いて

中指を立てたんだ、当然の報いさ。」


「…まあいいわ…少しは体が楽になったんじゃないかしら?」


「…確かに焼けるみてぇな体の痛みは引いた、頭も少しは回る様になった…傷の痛みもよく分かる様になったがね…」


「そう…治療しながら話すわ…私はギムレー…」


ギムレーと名乗る少女が手をかざすと柔らかな光が体を包む…傷の痛みが薄れるが、傷の治っているか よく分からない…


「俺は黒木くろき 彩火さいかだ…ギムレーだったな…いくつか質問させてもらおう…何なんだ…さっきのは…」



「異世界から来たあなたをこの世界に繋げ、留まる拠り所を作るための儀式。拠り所の無い人間は死の世界に落ちる。だから、古い方法ではあるけれど…隷属契約を行ったの…契約を結ぶ事で出来た私との繋がりがあれば、あなたはこの世界で生きる事が

出来るのよ。」


「…そりゃいいが…つまりだ、俺はお前の下僕に

されたって訳かよ……」


「そこまで恩知らずではないわ…あなたの目を対価としてもらったもの、私があなたに仕えるの。」


「…いいのかよ?自分で言うのもなんだがよ…俺は人殺しのバケモンだぜ?」


彼女の目に映る自分は人ではない。歪で、血塗れのおぞましい怪物だ。


「でも…私が頼れるのは、あなたみたいな狂人しかいないのよ…」


「誰が狂人だ…人の事言えねえだろ…次の質問だ、何で俺が異世界から来たって知ってる…」


「体の異常発達で不安定に変化した体よ…それは

異世界の人間だけが患うネフェリムの呪いね…」


「呪い?」


「呪いは言うけど、悪さしかない訳じゃないわ…

肉体の能力が異常な程強い証でもあるから。」


「俺…運動は苦手なんだがな…まあいいや、それでこの状態が何で呪いなんて言われる?」


「普通なら、絶大な力に体が耐えられなくなって

死ぬからよ…あなたみたいに生き残り、力を制御

出来る人間は稀有な例なの。」


「…俺は病弱な方なんだがな…」


「そう…さて、そろそろ傷が塞がってきたわね。」


「む…」


傷口は塞がったが、激しく動けば傷口が再び開く

だろう。この状態では完全に治ったとは言い難い。

しかし、出血は止まって痛みもかなり引いた。


「それじゃ……どうすっかな…」


(異世界に来たのは良い…煩わしい世界とも別れる事が出来た。俺を掴む死の感触も離れていく…

しかし、この世界に来て何をするのか…それを全く考えていなかった…ただ、世界から逃げたかった…行き先の無い旅でもすればいいのだろうか…?)


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