第20話 そんなわけないわ、あの人が裏切るなんて…
二日の休日を経験した後の学校は非常に大変だった。
今は月曜日の放課後になり、
「俺、先輩だからさ。早く部活に行かないといけないんだよね」
「先輩気どりかよ。お前らしくないな」
突っ伏していると、クラスメイトらの話し声が聞こえてくる。
「まあ、後輩が出来たからには先輩らしく教えないといけないからさ」
「そんなに真面目ぶってさ」
「そんな事はないさ。俺は普段から真面目さ」
「去年は部活をさぼってゲーセンに行っていた奴のセリフかよ」
「そ、それは。まあ、いいんだよ。。これから気を付ければさ。俺、もう行くから。お前もさっさと部活に行けよ」
騒がしくなった教室内。
二年生になった今、先輩としての立ち振る舞いが重要になってくる頃合いだろう。
去年まで不真面目だった人らが、人が変わったかのように活動的になっているのだ。
本気で打ち込めるものがあるのはいい事だと思う。
俺も……というか、部活に所属してないからあまり関係ないか……。
でも、何かの部活に入った方がいいのかな。
そんな事を考えながら、突っ伏していた達紀は顔を上げ、教室の黒板の上を見やる。
時計の針は、四時十五分を示していたのだ。
「ん?」
丁度、スマホに連絡が入る。
確認してみると、それは妹の
教室を後に、達紀は手ぶらのまま学校の中庭へ向かう。すると、そこには一夏と唯花がいたのだ。
「お兄ちゃん、急に呼び出してごめんね」
「別にいいんだけど。それでどんな用事なの?」
「今から一緒に料理部にもう一回見学に行くんだけど。お兄ちゃんも来てくれない?」
「俺も?」
一夏から誘われた。
「達紀先輩来てください。私、ちゃんとした料理を作るので。食べてほしいんです!」
「先輩って、これから用事ってあるんですか?」
「今日はないかな」
「でしたら、丁度いいですね」
「え、でも、俺、二年生だし。見学は出来なくないか?」
唯花からは、一緒に来てほしそうに上目遣いで見つめられていたのだ。
「わかった……じゃあ、行こうかな」
達紀は、唯花の誘い方が可愛かったからという理由は口にはしなかった。
恥ずかしかったからである。
「ありがと。お兄ちゃん、さすがだね」
何が流石なのかはわからないが、達紀は二人と共に、その中庭から別校舎の家庭科室まで向かうのであった。
達紀は参加できないと思っていたのだが、意外と料理部の女子部長からすんなりと受け入れられていたのだ。
基本、料理部の部室にいるのは、女子生徒の割合の方が多かった。
九対一の構図である。
「では、今日は簡単なシチューを作ってみましょう。食材はすでに用意してありますから。それを使いますね。でも、見学の時だけですからね。正式に部として活動する際には、食材は各自持ってきてもらいますから」
エプロンにバンダナを付けた、料理部の部長が場を仕切っていた。
「では、班ごとに協力して作る事が大切ですから。役割分担はちゃんと決めてくださいね」
料理部の部室にいる人らが、しっかりと部長の意見に従っている。
見学している子らは指示通りに石鹸で手を洗い、除菌して食中毒にならないように対策していた。
達紀はというと、他の人らと同様にエプロンとバンダナを身につけていた。
料理はしないのだが、部室にいる以上、清潔な姿を保たないといけないらしい。
「シチューか。私、ちゃんと出来るかな」
「大丈夫だよ、唯花。私も見てるから」
唯花と一夏も手を洗い終え、早速テーブルにまな板と包丁を用意し、野菜を切り始めるのだ。
「唯花、その切り方だと、危ないよ。手が」
「え?」
包丁を持っている唯花の隣に立つ一夏。
「ネコの手じゃないと」
「でも、やりづらいんだよね」
「そうしないと指を切ってしまうかもしれないし。基本は守らないとね。ネコの手はこんな感じね」
一夏は笑顔で、ネコのように握った拳を自身の頬に当てていた。
「ネコの手ね」
「うん、そんな感じ」
唯花も握った拳を自身の頬に当てていたのである。
「まず、私が見本を見せるね。ネコの手のまま、この玉ねぎの上に手を置いて。まずは半分に切るの」
「うん、うん」
「次は半分コにしたのを横から包丁を入れて三段階に分けるの。そこから縦に一センチ間隔で切っていく感じ。そうしたら、ほら、みじん切りになるでしょ」
「へえ、そうなんだ。そうやるんだね」
「はい、やってみて」
「一夏って上手なんだね」
「まあ、私も何度か料理はしてるからね。知識と経験があれば何でもできるって感じね」
「凄い。私もやってみるね」
唯花は包丁を手に、一夏が切ったところから再開する。
「うッ、んッ」
「ど、どうしたの、唯花」
「痛い」
「え?」
「玉ねぎが目に染みて痛い」
「そ、それは頑張るしかないよ」
「う、うん、そうだね。頑張るね」
「私、ニンジンとかを切ってるね」
二人はチームとして役割を決め、作業に取り組み始めていたのだ。
「ん?」
エプロン姿で料理をしている二人を見て、何か思い当たる節があった。
「あッ」
「お兄ちゃんどうしたの、急に大きな声を出して」
一夏は達紀の声に反応し、手を止めていた。
「俺、まだサッカーのユニホームを返していなかったって思ってさ。今から返してくるよ。また戻ってくるから」
達紀はエプロンとバンダナを外し、近くの木製の椅子に折り畳んでおく。
達紀は別校舎を後に、本校舎へ走って向かう。
放課後の静かな廊下を移動し、階段を上ったりして、いつもの教室まで移動するのだ。
「え? なんでよ、もう。なんで電話に出ないのよ」
ん?
刹那、教室から誰かの怒鳴り声が聞こえる。
こっそりと、いつもの教室を後ろから覗き込んでみると
怖い形相で、スマホ画面に向かって罵声を浴びせているのだ。
「なんで、繋がらないのよ! この前まで私と連絡してくれていたのに」
茜はむしゃくしゃしているらしい。
まだ帰っていなかったのか……。
というか、このままだと教室に入れないって。
達紀のリュックはまだ教室内にあり、それには今日の課題も入っているのだ。
教室に足を踏み入れない事には、事が進んで行かないのである。
「んッ?」
「え、え⁉」
なぜか、茜が教室の扉に隠れていた達紀の存在に気づいたようで丁度視線が合ってしまう。
「あんた、もしかして、私の話を聞いてたの!」
「い、いや、盗み聞きじゃないから」
達紀は隠れることが出来ず、流れで教室に入る事にした。
「きも」
「俺はそんな意味ではなく、用事があったからで」
「というか、今聞いた話は誰にも言わないで」
「どうして?」
「だ、だって、これだと恥ずかしいから」
茜は顔を真っ赤にしたまま、達紀の事を睨んでいたのだ。
「でも、さっきの様子だと、フラれたって感じなのでは?」
「はぁ? そ、そんなことあるわけないじゃない! 違うし、私はフラれてないわ。絶対に!」
茜は頑なに、信じようとはしていなかった。
達紀は頷くように、顎に右手を当て、この前の事を振り返っていたのだ。
それをこっそりと聞いていたのだ。
もしかすると、茜は武尊から選ばれなかったのだろう。
ただ、都合の良い相手として遊ばれていただけなのだと思った。
「なに、あんたさ、さっきからニヤニヤして」
「まあ、選ばれなかったんじゃないか?」
「は? どういうこと」
茜は、教室の入り口近くに佇む達紀に近づいてくる。
「俺、武尊に関する話を噂で聞いてね。武尊って人。別の女性とも付き合ってるらしいって」
「ちょっと待って。どういうこと? この前も私が騙されている発言をしてたじゃない。アレ、本当なの?」
「んー、どうだろうね」
「なんで、こんな時に限って焦らすのよ」
「でも、この前、信じてくれなかったじゃん」
「そうだけど……でも」
茜は焦っているようだ。
「じゃあ、真実を知りたいなら、自分の目で確認したら?」
「え?」
「これ、あげるよ」
達紀は昨日、
そのイベントの日時や場所が記されている用紙を渡したのである。
「これ、私、全然知らないんだけど。でも、スポーツ関係のイベントだし、以前武尊が言っていた内容と似てるし」
彼女は隅から隅まで、その用紙を両手に持ち、見ていた。
「どうする? それを今週中の休みの日みたいだし。俺の意見を信じれないなら、直接イベントに参加すればいいんじゃないか?」
「ふん、べ、別にこんなの……もういいわ」
茜は否定的な発言を口にしているものの、その用紙を手にしたまま、捨てセリフをはいて立ち去って行ったのである。
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