第2話 フラれた俺は、津城姉妹と関わる事になった

「ここだよ。こっち来てください、達紀先輩!」


 学校から徒歩で三〇分程度にある場所。

 そこに、津城唯花つしろ/ゆいかが言っていたアパートがあった。

 外観はしっかりとしており、清潔感のある雰囲気が漂っていたのだ。


 唯花の部屋は階段を上った二階にあるらしく、達紀は彼女と共に向かって行く。

 階段を上った先。その階段近くの部屋の扉の前に、一人の女性が佇んでいる。


 金髪のロングヘアが特徴的な綺麗な女性だった。

 けれども、どこかで見覚えがあったのだ。


「アレ? 蓮見くんかな?」


 それは蓮見達紀はすみ/たつきが脳内で連想している人物と同じ、津城芹那だった。

 彼女の方から話しかけてきたのだ。


「達紀先輩って、私のお姉さんと知り合いだったんですか?」

「一応ね」


 達紀は隠す必要性もないと思い、すんなりと話す事にした。


「蓮見くんって、私と同じバイト先で働いてるんだよね」

「は、はい」

「そうなんですか、達紀先輩! じゃあ、意外と世間って狭いんですね」

「そうみたいだな」


 達紀は意外な現状に、少々驚きながらも後輩に対して相槌を打った。


「でも、どうして蓮見くんが?」


 女子大生である津城芹那つしろ/せりなは首を傾げていた。

 芹那は大学二年生の二〇歳である。


「達紀先輩が、私の落とした鍵を一緒に探してくれたんです」

「鍵って、アパートの?」

「そ、そうだけど……」


 唯花は申し訳なさそうに言う。


「失くさないでよね! 後々面倒なんだから」

「ごめんなさい」

「見つかったのならいいんだけど。蓮見くんもありがとね。妹のために」


 芹那は、少し抜けているところがある妹を軽く叱り、その後で達紀の方を見つめてきたのだ。


「いいえ、たまたま唯花さんが困ってるところを見かけたので」

「そう。でも、本当にありがとね」


 芹那からも、笑顔でお礼を言われた。


「それで、お姉さん。達紀先輩のために何か作ってよ」

「いいよ、そういう事ならね。蓮見くんはなんでもいい?」

「はい、なんでもいいです」

「じゃ、普段ファミレスで提供しているハンバーグでもいい? さっき店長から貰って来たの。賄いみたいなモノだけど」

「はい、それでも問題ないです。そんなに大層な事はしてないので」

「そんなに遠慮しないで。あとは少しだけ私のオリジナルなモノも作るから。まあ、ここで話すより、一先ず家の中に入って」


 芹那は鍵を使ってアパートの扉を開け、部屋の中へと案内してくれたのだ。


「ちょっと待っててね、二人とも」


 三人はアパートの中に入っていた。

 芹那は玄関扉の鍵を閉める。


 アパートの中は綺麗に整頓されてあった。

 玄関近くが料理スペースといった感じで、換気扇が取り付けられてある。


 アパートの広さは2LDK。

 広いキッチンに加え、二つの部屋があるといった仕様らしい。


 達紀と唯花はリビングとして使っている部屋まで向かう。

 近くには組み立て式のテーブルがあり、その前に座った達紀は胡坐をかき、唯花は正座をしていた。


「今から料理をするから。多分、三〇分くらいはかかるかも」


 そういって、芹那はリビングの床にバッグなどを置き、キッチンと部屋が繋がっている場所の扉を閉める。


 扉で隠された扉の先からは、フライパンを取り出す音や、包丁で野菜を切る音が聞こえてきたのだ。


「お姉さんは料理がとにかく出来るから、安心してよ!」


 達紀の隣に座っている唯花は親指をビシッと立て、グッドサインを見せてきたのだ。


 芹那はファミレスでのバイトでもそうだったが、料理が上手いのである。それに加え、接客も出来る事から、バイト仲間の間では優秀だとされ、一目置かれていたのだ。


 バイト先の賄いハンバーグの他に、どんな料理を作ってくれるのか、達紀は楽しみでしょうがなかった。




「はい、出来上がったわ」


 芹那の声と共に、リビングとキッチンが繋がっている扉が開く。

 達紀と唯花が学校の事について話していると、芹那が出来立ての料理を作って持ってきた。


 芹那はデフォルメ動物がプリントされたエプロン姿で、二人の前にやってくると手始めに賄いハンバーグをテーブルの上に置く。


 芹那のバイト時の姿は何度も見たことはあるが、プライベートで身につけるエプロン姿を目撃するのは初めてだ。

 その上、よくよく見ると芹那の胸は大きく見える。

 でも、あまり性的な目で見るのはよくないと思い、達紀は感づかれる前に、咳払いをして誤魔化していた。


 それよりも、いつもファミレスバイトで見ているハンバーグが目の前にあるのだ。

 達紀はバイトとしての日が浅い事も相まって、実際に食べるのは初めてなのである。


「それと私オリジナルの野菜炒めと、ご飯も持ってくるわね。そうだ、蓮見くんは、お味噌汁とコーンスープだったら、どっちがいいかしら?」


 その場に佇む芹那から問われた。

 達紀は彼女を見上げる。


「えっとですね、どっちでもいいですけど。ハンバーグなのでコーンスープでお願いします」

「わかったわ。唯花は?」

「私もコーンスープで!」


 唯花は美味しそうなハンバーグを前に、目を輝かせながら大きな声で明るく返答していた。




「はい。ご飯っていうか、ライスと、コーンスープね。それと私特製の野菜炒めよ」


 芹那がキッチンの方から三人分を持ってきた。

 各テーブルの前には、夕食としての料理一式が揃う。

 追加で麦茶の入ったコップまで渡されたのである。


「いただきます」


 テーブル前に正座して座る芹那に合わせて、唯花も言う。

 達紀も二人の様子を伺いながら箸を手に、挨拶をしてから食べ始めるのだった。


「ん! 普通に美味しいな、こんな味をしていたのか」


 達紀は衝撃的だった。

 匂いだけしか嗅いだ事の無かったハンバーグを今まさに口へと放り込んで咀嚼し、それを喉に通していたのだ。


「美味しいなら良かったわ。ハンバーグはもうないけど、野菜炒めなら残りがあるから食べてもいいからね」

「はい、ありがとうございます」


 達紀は新学期初日で色々なストレスを抱え、お腹を減らしていたのだが、芹那が作ってくれた料理を口にして、心を穏やかにしていたのだ。


「蓮見くん、急にこんな事を聞くのも変だけどさ」

「はい」


 達紀は飲み物を口にしている際に彼女から問われ、頷く。


「蓮見くんは付き合っている人っているのかな?」

「んッ! え⁉」


 急な問いかけに、達紀は咽てしまう。


「でも、いないなら、私と付き合ってくれない?」


 芹那は余裕のある笑みを浮かべ、自然体な雰囲気を醸し出しながら問いかけてくるのだ。


 これって、本心から告白されてるのか?


 急な出来事に、達紀は戸惑っていた。


「ちょっと、お姉さん、達紀先輩は私と付き合う事になってて」

「そうなの? 蓮見くん?」

「それは、今のところは友達ってことで」

「なら、私と付き合ってみない?」


 同じテーブルに座っている芹那から誘惑されていた。

 おっぱいも確実に、唯花よりもデカい。


 いや、おっぱいとかが問題じゃなくて……。


 達紀は二人の彼女らからまじまじと見つめられ、その対応に追われる事となったのだ。

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