付き合っていた恋人を年上の男性に寝取られたので、俺はその男性の妹&姉と付き合う事にした
譲羽唯月
第1話 恋人を寝取られた日
クリスマスの日。
一年間の内で大切な日だ。
夕食用に購入したフライドチキンを購入し、
そんな日に、達紀は彼女の家で見たくないものを目撃する事となったのである。
「お邪魔します。買ってきたよ……え?」
すると、セミロングヘアな清楚系の茜は別の男性と一緒にいたのだ。
「えっと、そっちの人は?」
見知らぬ存在に達紀は困惑した。
恐る恐る彼女に問いかけてみる。
「こちらの方は、私と付き合っている人なの」
茜は平然とした表情で、淡々と説明し始めたのだ。
「え、ちょっと待って。どういうこと? 茜は俺と付き合っているんだよね? そういう認識であってる?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ……え? えっと、そちらの人は? 親戚の人とか?」
「違うよ。付き合ってる人ってこと。さっきも言ったよね?」
「う、うん? それはわかるんだけど。付き合ってるってどういう意味?」
「わからない? 新しく付き合い始めたの。この際だから言っておくけど。あなたとはもう別れたかったの。達紀ってパッとしないし、男らしくないし。私、もういいかなって思ってたの」
「え、でも……この前までそんな素振りもなかったし」
「もういいから。達紀はもう帰ってもいいわ。そういう事だから」
そ、そんなぁ……。
達紀はクリスマスの日に地獄を経験するとは思ってもみなかった。
絶望の言葉が脳裏をよぎる。
楽しい今年のクリスマスの日が一気に終焉を迎えた瞬間だったのだ。
はあぁ……。
なんで俺の人生って、こんなにも苦しいんだろ。
達紀は絶望的なクリスマスを過ごした翌年の二月の期末試験を乗り越え、二年生への進級が決まったのだ。
そこに関しては嬉しいのだが、茜と強引な別れ方をしたことで、日々心を閉ざしたままだった。
学校内では誰とも関わる事無く孤独に過ごしていたのだが、今年の三月から気分転換程度にファミレスのバイトを始める事にしたのだ。
学校以外のコミュニティで活動するようになった事で、一応精神的には楽になっていた。
それがちょっとした心の救いにはなっていたのだ。
がしかし、進級後の四月からのクラスメイトの中に、茜がいたのである。
関わりたくない人がいるのは辛い。
顔を合わせるのも嫌だし、心苦しいのだ。
地獄のような新学期を迎え、薄暗い気持ちのまま、新年度の生活を送る事となったのである。
教室内では、変に明るくなった茜の姿があった。
今の茜は茶髪のセミロングヘアスタイルで、制服を着崩しているのだ。
以前の茜であれば、比較的大人しく人当たりのよい性格をしていたが、今の彼女はクラスの一軍みたいな感じの子になっており、他人への接し方が雑になっていた。
達紀が知っている彼女とは全然違う。
今のクラスには親しい子もおらず、新年度初日の授業から達紀は一人寂しく学校生活を送るのだった。
「それでさ、今日、どっかに寄って行かない?」
「じゃあ、新しく出来たカフェに行こ」
「いいね、行こ! 私も気になってたんだよね」
その日の放課後。茜は新年度から出来た二人の女友達と話しながら教室内を移動していた。
一学期の黒板消し担当になった達紀は、教室から出て行く彼女らとぶつかってしまう。
「は? なに、あんたさ」
「ごめん」
茜の友人からガンつけられる。
達紀は謝る事しか出来なかった。
「まあ、こんな奴、放っておこ。マジでキモいし」
茜が達紀の事を蔑んだ目で見ている。
「え? でも、あんたって、こいつと付き合ってなかった?」
「えー、なんで知ってんの。というか、マジで付き合ったの後悔してるんだけど」
「それ言いすぎじゃね」
「いいの。こんな奴、本当にキモかったの。今の彼氏の方がしっかりとしてるし」
「そうなんだ、茜の彼氏って、どんな感じの」
茜は二人の友人らと共に教室を後にしていく。
達紀は茜に対して何も言い返せず、変わってしまった彼女の後ろ姿しか見る事が出来なかったのだ。
黒板消しを終えた頃には、教室内には誰も残っていなかった。
達紀は通学用のリュックを背負い、教室の電気を消して廊下を歩き始める。
校舎の階段を下り、中庭が見える一階廊下を移動していると、困った感じの声が聞こえてきた。
誰かと思い、窓の外を覗き込んでみると、顔や制服を土で汚した見知らぬ女の子がしゃがんでいたのだ。
「どうしたの?」
「す、すいません。なんでもないので」
「でも、困っているような感じの事を言っていなかった?」
「き、聞いていたんですか?」
小柄でショートヘアな彼女は慌てた感じに立ち上がる。
「私……恥ずかしい事に、この周辺にアパートの鍵を落としてしまったんです」
「鍵? なんで?」
「えっと、さっき校舎を掃除していた時に、制服のポケットから落としてしまったようで」
「そうなの? じゃあ、手伝うよ」
「いいですよ。そんなに、手間はかけられないので」
彼女は遠慮していたが、困っている子を放っておけなかったのだ。
顔や制服に土がつくほど探していたという事は、相当時間がかかっているのだと察し、達紀は手伝うのであった。
「あ、あったよ」
達紀は中庭の草木の中から、銀色に光り輝く鍵を見つけた。
「本当ですか? あ、ありがとうございます!」
彼女は頭を下げていたのだ。
「別にいいよ。ん? そういえば、見かけない顔だね」
「はい。今年から入学した一年生で、それで、この学校の事も全然わかってなくて」
「そうなのか。でも、初日から大変だね。鍵を無くすなんて」
「はい。私、ちょっと抜けてるところがあって、それで。えっと、少し方向音痴なところもあって。なので一緒に帰ってくれませんか? 見つけてくれたお礼もしたいので」
「そんなに気を遣わなくてもいいよ」
「でも、私が納得しないんです。一回だけでもいいのでお願いします」
達紀の前で彼女は頭を下げていた。
「んー、まあ、いいか。少しだけなら」
「では、私の家に来てくれますか? そこでお礼しますね」
彼女は頭をあげ、達紀の事を真正面から見つめていた。
達紀は、まっすぐな心を持った彼女に流されるがまま、共に学校を後にする事にしたのだ。
彼女は土で汚れた制服や顔を、タオルで払っていた。
「えっと、先輩って呼んでもいいですか? 私、一年生なので、その方がいいですよね?」
「好きに呼んでもいいよ。先輩って言われる柄でもないんだけどさ」
「でも、私よりも先に入学しているので、先輩なんです! それと自己紹介が遅れましたね。私は
「俺は達紀」
「では、達紀先輩って呼びますね! そういえば、達紀先輩って付き合っている人っていたりしますか?」
学校を後に通学路を歩いていると、隣にいる彼女から問われる。
彼女はいない。
数か月前、新しい男性と付き合っているところを見せつけられながらフラれてしまったのだ。
でも、彼女と一緒にいると、辛い感情も少し和らいでくるようだった。
「いないのでしたら、少しだけでもいいので付き合うと言いますか、友達? 先輩に対して友達っていうのも失礼ですよね」
「いいよ。じゃあ、友達からで。俺もそれからなら大丈夫だと思うから」
「大丈夫とは?」
「いや、俺の方の話。気にしなくてもいいよ」
達紀は彼女に心配をかけないように言葉を誤魔化す。
二人は隣同士のまま、楽しく会話しながら夕暮れ時の通学路を歩き続けるのだった。
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