第27話
『お前こそ誰だ』
青年は暗い瞳で満面の笑みを浮かべていたが、発した声音は凍り付くほど冷たく、秀に対しての明らかな敵意が感じられた。
「その女をどうする気だ」
『それを聞くのか、お前が?』
特殊な響きを持つ青年の声は、秀の頭にまるで鉛のように重く響いた。
『人間を食い物にするお前達のやり方は知ってる。この女は僕のものだ、消えろ』
「…お前…なんなんだ…やめろ、その声…!」
青年の声は、秀にとって"あの少女"と同じくらいの圧力があり、思わず目を瞑ってしまう程の恐怖を与えていた。
『ならお前が消えろ、僕とかすみの時間を邪魔するな。もうすぐなんだ…ねぇかすみ』
青年は眠るかすみの頬を撫で、無造作に放られていたかすみの腕を拾い上げ、手の甲に唇を押し当てた。
『吸血鬼、これが最後だ。今すぐ消えろ、お前に出来ることはもう無い。…それとも…僕に"そうされたい"のか?』
そう言って秀に微笑んだ青年が、かすみの手を離そうとしたその時だった、
これまで沈黙を守ってきたはずのかすみの口が微かに動き、「し、らか、わ…さん…」と途切れ途切れに呟いたのだ。
すると白川はまるでとろける様に甘く、うっとりとした表情でかすみを見つめ、『すぐ戻るから、少し待っていて』と囁く。
そしてかすみの手の甲を長い指でゆっくりと撫でながら秀へと視線を戻すと『僕の月はもう待てないみたいだ』と、まるで幼い少年の様に頬を紅潮させて微笑んだ瞬間、
床をドロドロと這っていた黒々とした泥が一斉に秀へと押し寄せ、あっという間に呑み込んでしまった。
「あぁ…!ぅう…」
『大丈夫、ただここから出て行って貰うだけだから。殺してなんかあげないよ、………僕の月に牙をたてたお前は、いつか狩人にその心臓を貫かれれば良い。僕はその時を心待ちにして見ているよ』
「!?」
最後に青年が秀へと放った言葉は、強烈な"呪詛"となって秀の胸へと刻まれ、秀が最後に見た青年の顔はまるで全ての感情を失ったかの様な無表情だった。
秀が泥の中へと姿を消した後、泥で溢れかえっていた部屋中の床に次々と花が咲き乱れた。
『……これでやっと二人きりだね』
白川は美しい夢が溢れた部屋の中で眠り続けるかすみへと囁くと、かすみの額にそっと口付けた。
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