第26話

暗いクローゼットの中で秀が目を覚ましたのは、いつも大体17時過ぎだ。



その日、秀は少し考え事をしながらクローゼットを抜け出し、リビングへと入って驚いた。



リビングのすぐ隣の部屋は、スライド式のドアでしきられており、そこが同居人、かすみの寝室がある。



普段なら17時という時間に同居人が家にいる訳がないのだが、その日はしきりのドアすら閉めることなくベッドで眠り続けていた。



(仕事休んだのか…?)



秀は床に物が散らかりまくっているかすみの寝室へと入り、眠るかすみに「おい、ブス。具合いでも悪いか?」と声を掛けるが応答はなかった。



「…………」



そして何処からか鳴り響くバイブ音に気付いた秀は、かすみのビジネスバッグの中に放置されていたかすみのスマホが震えているのを発見する。



画面を見るとそこには「黒百合さん」と表示されていた。



(……会社の人間か?)



秀は一旦スマホを手に持ったまま、かすみの眠る寝室へと戻り、「おい、電話きてんぞ」とかすみの頬を指でツンツンとつついたその瞬間、



秀の指にバチッと静電気のような衝撃が走り、秀は思わず手に持っていたスマホを床に落としてしまった。



そして落としてしまったスマホを秀が拾いあげようとした時、床からドロドロと黒い泥が溢れ出してきた。



「!?」



秀が泥に巻き込まれないよう身を引いた時、ふと顔を上げるとかすみの眠る傍らに若い青年が立っていて、かすみの頬を長い指でスっと撫でていた。



「……誰だお前」

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