第20話

「君に見せたいものがあるんだ、奥へ来て」



白川はかすみの耳元で囁き、かすみの腰に回していない方の腕を振る。



すると2人を包んでいた黒い泥が一部2人を避けるようにして割れ、前方から温かい光が差し、2人を照らす。



光に照らされた白川の髪はサラサラと輝き、そのキャラメルの様な瞳も、温かく穏やかに細められていた。



白川に促されるまま進んで行くと、そこは温かい陽の光が溢れる、豊かな自然に呑み込まれた古い遺跡の様な場所だった。



人の手で作られたのだろうか、歪な形で時を止めた神殿のような石造りの立派な建物は、彩り豊かな花々や青々とした木々や葉に覆われている。



(これも夢…?)



「綺麗でしょう?僕はね悪夢だけを食べるんじゃないんだ。"嫌な記憶"だって食べてあげられるし、綺麗な夢は綺麗なまま見せてあげられる」



「すごい…とっても綺麗です。綺麗な夢ってこれのことですか?」



白川は愛おしげにかすみの手の甲を指で撫でながら、自分を見上げるかすみに微笑みながら首を横に振った。



「これは記憶だよ。僕は、僕が食べた夢を保存して見せることは出来るけど、自分で夢を作り出すことは出来ないんだ」



「記憶…こんな場所が本当に存在したんですか…?」



「うん、そうみたい。僕がこの記憶を食べたのは君と出会うより随分前だけど、僕もここはお気に入りでね。君に見せたかったんだ」



「その…食べるっていうのは…」




「ん?」



花々の中を白川と並んで歩きながら、かすみはずっと気になっていたことを口にしようとしてやめた。



「…………」



しかしそんなかすみに、白川はキュッとかすみの手を握り、口を開く。



「僕が食べられるのは、夢や記憶の持ち主が望んだものだけだよ」




「!そうなんですか、じゃあこの記憶も誰かのもので、自分から手放したってことですか?」



白川は、温かな陽の光に揺れるかすみの細い睫毛を眺めながら「そうだね」と相槌を打つ。




「こんなに綺麗なのに…」



そう言いながら辺りの景色を見渡しながら歩くかすみの足元には赤いリボンが落ちており、色褪せることなく青々とした草花の中に紛れているそのリボンを横目で見ながら白川は悲しく微笑んだ。



「こんな綺麗な景色でも、彼には辛い記憶だったんだね。いや…綺麗だからこそかもしれない…」

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