第19話
どっぷりと黒々とした泥の中に足から引き込まれたかすみは、泥の中で声もなく叫んだ。
すると目の前に突然、キラキラと煌めきを帯びた白川がいつもと変わらぬ笑顔で現れた。
「いらっしゃい、かすみちゃん」
「白川さん…」
白川が現れた瞬間、息の詰まるような泥の圧迫感から解放され、体もパッと軽くなる。
「こっちに来て」
キャラメルのような甘い瞳でかすみを真っ直ぐに見つめ、ゆっくりとかすみへと腕を伸ばす白川。
白川のキャラメルのような瞳は、見つめれば見つめるほど甘く輝いていて、かすみはその瞳に囚われるような感覚を覚えた。
泥の中、どのように体を動かせば良いのか少しの間考えたかすみだったが、試しに足を前へ押し進めると、すんなりと白川のもとへと辿り着けた。
「ここが僕の住処なんだ」
「住処…?」
「そう、僕が食べた悪夢を溜めておく場所。君をここに入れる日が来るなんて思わなかった」
そう言ってニッコリと微笑んだ白川の顔は、元々華やかな外見に目を惹かれるが、よく見るとその瞳には微かな悲哀の色が滲んでいた。
「……なにか、ありましたか?」
「なにかって?」
かすみの問いに、一瞬だけポカンとした白川だったが、誤魔化すように一度瞳を閉じて微笑み、軽く首を傾げた。
「あ…、なにもないなら良いんです。ちょっとだけ、悲しそうに見えたので…」
「悲しくはないよ、全く。君が来てくれて嬉しい」
白川はそう言いながら自然にかすみの腰へと腕を回すと、耳元で「君に見せたいものがあるんだ、奥へ来て」と甘く囁いた。
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