第18話

金木犀の香りを運ぶ秋風に吹かれながら、かすみは煉瓦造りの街を走っていた。




「はっ…はっ…!ふっ、ふっ!」



(今日は走ってるな…)



かすみは足を動かしながらも、これがいつもの夢だと自覚し、目だけを動かして白川の姿を探した。



白川が現れないということは、まだ夢の浅い位置なのだろう。



(戻れなくなるって言ってたけど、本当に戻れなくなったとしたら、私ってこのまま走り続けることになるのか…な…?)



「絶対嫌だっ!!」



今すぐ止まろう、今止まろう!と足を止めようとするが、夢の中だからだろうか、自分の足のはずなのに自分の意志に反して、どんどんと前へ前へと進んで行く。



「いぃい!?」



(と、止まらない!なんで!?)



そうしている内に、白川の現われるいつものポイントを通り過ぎる。



いつもならもうじき黄色い声援と共に、きらめく金髪をサラサラと秋風に揺らしながら「今日はこの辺で諦めよう?」と甘く微笑んでくるはずだ。




「はっ…はっ!ふっ…ふっ…!」




「ひっひっ…!はぁ、はぁ…」



しかしかすみの期待も虚しく、この日に限って白川はなかなか現れなかった。



(なんで今日は来ないの!?今日こそ止めてよお〜!!)



体はしっかりと疲労を感じ、足も着々と重くなってくる。



そうして前々回、白川によって寝かされたポイントを通り過ぎたその瞬間、かすみの踏み出した足がまるで深い沼にでもハマってしまったかのようにズブズブと呑み込まれていく。



「なんで!?」



かすみが慌てて足を引き抜こうと、もう片方の足に体重をかけると、それまでしっかりと形を保っていたはずの地面が一瞬にしてドロドロとした黒い泥のように変化し、そのまま一気にかすみの体を引き込んだ。

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