三章
第17話
その日、かすみが眠りについた後、秀は一人、家を出た。
「やっぱ不味っ…」
唇についたかすみの血を拭いながら暗い夜道をあてもなく歩いていた。
(なんでアイツからあの匂いが…)
「ちっ…!」
暗闇の中、秀が舌打ちをするとすぐ後ろから「不機嫌ね」と楽しそうに凛と響く声が聞こえ、秀は反射的に身構えた。
「おまえ…!」
秀が振り返ったそこには、満面の笑みを浮かべた少女が一人立っていた。
「こんばんは♪良い夜ね」
軽い足音を立てながらこちらへと近付いて来る少女に秀は赤く瞳を光らせ、「来るな!」と怒鳴るが、
一方で少女はちっとも怯えた風もなく、秀に笑いで答える。
「酷いわ、どうして私を拒絶するの?貴方は私の唯一のお友達なのに」
「ふざけるな!俺をこんな風にしたお前を、俺が許すとでも思ってるのか?」
「許す?そんな話じゃないわ、貴方は私のお友達。それは事実よ、だって貴方、今もそんなに私のこと怖がってるじゃない」
「!?」
クスクスと笑う少女に、秀は小刻みに震えていた手を後ろに隠した。
「何しに来た…もう俺はお前の餌じゃない!」
「ふふふ、そうね♪もう貴方は私の餌じゃない、吸血鬼の血なんてロクな味がしないもの。それに、私達のこの動かない心臓は、人間の血でしか鮮度を保てない」
「……………」
「貴方も理由は分かってるんでしょう?私が来た理由。………貴方の今の餌…鬼と繋がりがあるみたいだけど、それは困るの。何故殺さないの?」
少女は笑顔を顔に貼り付けたまま、ゆっくりとした足取りで秀へと近付き、秀の周りを歩く。
「繋がりなんてない、アイツは…鬼を鬼だと思っていないはずだ」
秀の言葉を聞いて、少女は一瞬目を見開き、秀と同じく瞳を赤く光らせた。
「頭が悪いのね、私は餌がどうという話をしてるんじゃないの。問題なのは鬼の方。貴方も分かってるでしょう?私達の存在は他種族に気付かれちゃいけないの。気付かれたら眠っている間に殺されてしまうのがオチだわ。貴方のミスは同種族である私にも迷惑が掛かるの、そうなったら貴方のミスは貴方自身で責任を持って貰うことになるわ」
「……じゃあなんで俺を殺さなかった…」
「殺して欲しかったの?あのまま?でも残念だわ、もう私に貴方は殺せない。……服従させることは出来てもね♪」
「答えになってない!」
「ふふふ、簡単よ。寂しかったの、言ったでしょう?お友達が欲しかったって。だけど、お友達でも許せないことだってあるわ。そうでしょう?貴方があの子を殺さないなら、私が殺すわ。あ!それとも新しいお友達になって貰うのも良いわね?」
楽しそうにスキップする少女に、秀は目を伏せた。
少女の言葉に秀は一瞬でも(それも悪くない)と期待してしまった自分の唇に牙をたてた。
「………分かった、俺がやる…」
「そう言ってくれると思った♪」
少女は秀の前でくるりと一周回ると、満足そうに微笑んだ。
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