第16話

2人揃って家に入ると、秀は鬱陶しそうにかすみの手からコンビニ袋を取り上げ、一人でスタスタとリビングへと向かっていく。



「あれ?食べ物食べれるんだっけ?」



「食えねーよ、早く来い」



(あ、もしかして荷物を代わりに運んでくれたってことだったのかな?私のつまみ食べたいのかと思った…)



かすみはハイヒールを脱ぎ、秀を追いかけるようにリビングへと入る。



すると、秀はコンビニ袋の中から冷蔵庫に入れる食料品と、生活用品とを分け、食料品の方を先に冷蔵庫に入れているところだった。



「………なんだよ」



「いや、なんか…人間のそーゆーの分かるだ〜って思って…あ!バカにしてるとかではなく!」



チラリと赤い瞳でこちらを見てくる秀に、かすみは慌てて弁解する。



「分かるっつーの、俺だって数年前まではお前と同じ人間だったし」



「え!?そう…なの…?」



「ああ」



「じゃあ…なんで今は…」



困惑するかすみに、秀は一瞬顔をしかめたが、かすみの顔を見てすぐに吹き出した。



「おい、なんでお前がそんな顔するんだよ?」



「え、いや…そんな顔って…」



「危機迫ったような、"明日で死にます"って宣告された人みたいな顔してるぞ」



「だって…驚いて…」



「いやいや、お前、俺がお前を殺すって言った時の方が冷静だったぞ?」



「それは、納期延長に交渉の余地があると思って…実際に秀さんは見逃してくれましたし」



平然とした顔で自分の命を"納期"と表現したかすみに、秀は再び笑いだした。



「納期?お前それ本気で言ってんのか?それとも無意識か?どっちにしろヤバい奴だな、お前」



そう言って声を出して笑う秀の姿は、確かに同い年の普通の男性にしか見えなかった。

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