第11話
「引っ張った?」
倒れたかすみを、黒百合は満月の為にわざわざ作らせた仮眠室へと運びながら、後ろを付いて歩いてくる満月の言葉を聞き返した。
「ああ、その女、首に噛み跡がある」
「血鬼か?」
「まさか。鬼女紅葉はお前の立派なお父上にその力を封じられたはずだ。関係あるかは分からないが少なくともその女の身近に"なにか"居るな」
「…………」
仮眠室の簡易ベッドにかすみを寝かせ、しばらくかすみを見つめ、立ち尽くす黒百合の思考を察した様に、満月が笑う。
「まあ、母さんの憂いと関係しているかは分からないがこのままだとこの女も死ぬな」
「みつき!」
「?なんだ?」
黒百合は満月に対して他人の死を軽々しく口にしたことに対して咎めたつもりだったが、当の本人は金色の瞳をパチクリと瞬かせ、首を傾げている。
そんな満月を見て溜息をつく黒百合に、満月は金色の瞳を細めた。
「……馬鹿なヤツだ…。この僕が他人の命を軽視したと思ったのか?…だから僕はお前が嫌いだ。僕にとって人間とは、等しく守るべきものだ。そこに優劣などない、お前達とは違って僕は人間の内を全て見通せる。それは僕が完璧だからだ。お前のご立派なお父上からも言われていると思うが、態度には気を付けろ」
男にしては細いその腕で下からネクタイを勢い良く引っ張られ、透き通る金色の瞳に真っ直ぐに見つめられた黒百合は、その瞳の向こう側に温かい光を放つ水面が見えた気がした。
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