第9話

「……すみ、かすみ」



「あ、え!はい!」



箒を握りしめたまま回想にふけっていたかすみは、低い声で繰り返し名前を呼ばれ、慌てて後ろを振り返った。



するとそこにはスーツをまとった広い胸があり、かすみは振り返った拍子に顔面からその温かい胸へとぶつかってしまった。



「ぶぅ!」



「……大丈夫か?」



忙しないかすみに、声の人物は特にぶつかられた衝撃も全く感じていないようで、胸に受け止めたかすみの肩をそっと支え、顔を覗き込んできた。



「あっ!黒百合さっ!ん!お、おはようございます!どどどど、こ、こんな時間にどうして事務所に…!?」



「おはよう、満月がミーティングルームに台本を忘れてから取りに来たんだ」



「そ、そうだったんですね!あ!車!車出しますか!?」



「いや、大丈夫だ。それより…」



テンパって終始声を裏返しながら、半ば叫び声に近い声で話すかすみに対し、黒百合は全く表情を変えず、落ち着いた様子で唐突にスっとかすみの頬へと手を伸ばしてきた。



「/////!?」



「顔色が悪いな…寒いか?」



「い、いえ!元々低血圧気味で…!だ、大丈夫です/////!」



情熱的な強い赤のサンストーンの瞳に見つめられ、かすみは自分の顔がボッと熱くなるのを感じた。

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