第18話

とりあえず難を逃れた朱殷は、自慢の地味さと影の薄さで誰にも気が付かれることなく、事務室に戻った。



すると、そこに居たのは恋ではなく、眉間にシワを寄せ、長い足を組んで座る牡丹だった。



「あっ、お疲れ様です…」



しれーっとパソコンの前に座った朱殷に、牡丹は背後で溜息をつく。



「どこいってた?」



牡丹のピリピリとした声に、朱殷は思わず背筋を伸ばし、「お、御手洗に!」と苦笑いを浮かべる。



「恋を見かけないと思って来てみれば…アイツはここでなにをしてた?」



問い詰めるような口調の牡丹に、朱殷はしどろもどろになりながらも答える。



まさか若社長の従兄弟に対して"心が無い"など他にも失礼なことを言ったなど、正直に言い出すことが出来るはずもなく、




朱殷は当たり障りなく、「あ、えっと紅茶を飲みながら、ちょっとした世間話を…」と誤魔化した。

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