第12話

「ところで、今日はどうしてお客さんは帰っちゃったんですか?」



「分かんない」



そう言って軽く微笑む僕に、女は首を傾げる。



「何かしら怒らせてしまう原因があったはずですけど、主になんの話をしてたんですか?」



「あ〜、僕の失恋エピソードかな?ちっちゃい時の」



僕は薄く微笑みながら、指で米粒を摘むような仕草をしてみせた。



「なるほど…その話題からどう怒らせられるのか分からないですね、私はてっきりヤキモチでも妬かせたのかと…」




「ヤキモチ?なんで?」



「あー…、例えば相手と他のお客さんを比較するようなことを言ったりとか…。もうこんな時間ですし、恋さんの上客が複数来ていて、アフターフォローを誰にするのかで揉めたのかと思ったんですけど…」



女の言葉を聞いて、僕は純粋に何故この女は他の女の情緒の心配などしているのだろうと不思議に思った。

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