第10話

女はそう言うと僕の正面に座り、自分もぼーっと虚空を見つめながら湯気のたつマグカップに口をつけた。



「……作業は終わったの?」



「はい、あとは今日の結果待ちです」



「へぇー、速いね。前の事務員の人は終わらなくてヒーヒー言ってたよ?」



僕の言葉を聞くと、女は黒目がちな瞳を更に大きくした。



「えっ、サキが?」



「サキ?あの人サキって言うんだ?行方不明って聞いたけど、まだ見つからないの?」



「ああ…はい、全く…。サキの家族にすら連絡がつかないらしいです」



「そっか、君はサキさんの友達なんだっけ?」



「はい、一応…」



「心配だよね…」



僕はそう口にしながらも、渦中の人物の顔さえ覚えていなかった。



ただ印象としてあったのは、"ホストに異常に関わろうとする事務員の女が居た"ということだけだった。

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