第20話

「ひ、人が死んでる…」



「うん、僕達と同じ様に迷い込んじゃったんだろうね」



「だろうねって…。一体ここは何処なんだ…」



動揺するぬいぐるみに対して、青年は全く動じた風もなく微笑んでいた。



床に転がる人の体をぬいぐるみが慎重に避けた時、白くて丸い顔がすみれの方を向いた。



「あれ、恋さん人が居ますよ!」


「ほんとだ、初めて生きてる人に会ったね」



ぬいぐるみはテチテチと短い足ですみれの所まで来ると、「大丈夫ですか?」とすみれの顔を覗き込んできた。




「あ、あの…」



なかなか言葉の出ないすみれに、ぬいぐるみはハッとして、マイペースに後ろを歩いてくる青年を振り返った。



「恋さん、代わりに話してください」


「はいはい、お任せください、僕のお姫様♡」



(………………)



後から追いついてきた青年の後ろへとぬいぐるみが一旦下がると、青年はゆっくりとした動作ですみれの隣へとしゃがんだ。



「貴方も迷い込んでしまったんですか?」


「あ、はい…扉は確かに正しかったはずなんですけど…」



「とびら?」


すみれの言葉に、後ろのぬいぐるみがぶにっと首を傾げた。



(私、おかしいこと言ったかな…)



不安そうなすみれの表情に、青年は暖かく光るサンストーンの瞳を細めた。



「そうですか、ここはどうやら"貴方"を閉じ込めているようですね。僕達はここから出ますが、貴方はどうしますか?」



「…出られるんですか?」



「はい、"出ます"」



キッパリとした口調で微笑む青年に、すみれは頭を下げる。


「私も一緒に連れて行ってください」



「分かりました、ここは少し近過ぎるので移動しましょう」



青年はそう言ってすみれを立ち上がらせると、迷いのない足取りで階段を降り、広いロビーまで移動した。



「朱殷さーん、大丈夫ですかー?」


「はーい!」



スタスタと階段を降りてきたすみれと青年の後ろから、ぬいぐるみは元気に返事をしながらコロコロと転がってくる。



「お待たせしました」


「じゃあ、帰りますよ」


「………………」



緊張した面持ちのすみれに反して、青年とぬいぐるみは特に焦った風もなく、その至って普通の態度に、心強ささえ感じる。



「ちょっと二人とも下がっててください」



青年が一度軽く手を振ってすみれとぬいぐるみを下がらせると、白いワイシャツの袖をまくって思いっ切り壁を殴りつけた。



「!?」


てっきり最初にこのロビーへと入ってきた扉から出ると思っていたすみれは、拳で壁をぶち壊した青年に目を見開いた。



バキバキといくつもの亀裂が走った壁は、ガラガラと崩れはじめ、崩れた部分から太陽の光が差し込んでくる。



「さぁ、行きましょう」

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