七章
第16話
里中から鍵を受け取ったすみれは、真っ白な空間の中を走り出した。
シルヴァの浮かぶ方ではなく、反対側の突き当たりにまで辿り着くと、田村に叫んだ。
「田村さん!木村さんの鍵を受け取ってこちらに来てください!片っ端から全員分の鍵を試して確実に潰していきましょう!」
「あ…、わ、分かりました!」
今までにないくらい大きな声ですみれに声をかけれた田村は少したじろぎながらも、すぐに抜け殻のように呆然としている木村に駆け寄り、
一言二言話した後、すぐにすみれの元へと向かってきた。
「ダメです、木村さんは鍵を渡してくれません…」
「そうですか…仕方ないですね、まずは里中さんと田村さんの扉を探しましょう」
「わ、私のまで…?協力してくれるんですか?」
驚いた田村がすみれの顔を見返した。
「当たり前です、このゲームにおいて孤独はNGです。山田さんはきっと扉が見つからない焦りと不安から私の鍵を盗んでしまったんです。もちろん、田村さんの扉が見つかり次第、田村さんは扉の先へと進んでください」
「え、でもすみれさんは…」
「私は里中さんと木村さんの扉を見つけて、見送った後に出ます。扉のデザインは覚えていますから」
「そ、そんな…それじゃあ意味無い、私が離脱してしまったら、すみれさんが一人でこの数を…」
顔を青くする田村に、すみれは微笑み、そっと手を取った。
田村の手は冷たく冷えきっている。
この体温の低さは、緊張によるものではなく、おそらく田村の体のなんらかの病が原因だろうと、すみれは田村の顔色を観察して確信した。
シルヴァはここでは時間の概念がないと言っていたので、ここに留まっている間で病状が悪化するとは考えにくい。
しかし、"時間"という概念が支配する元の場所に戻った時、自分達の体がそれまでの矛盾をどう受けるのか予想がつかない。
健康体なすみれですらそう思うと不安なのに、持病のある田村のことは、尚更心配だった。
「私は大丈夫ですから、お願いします」
すみれの頑なな態度に、田村は戸惑いながらも「分かりました…ありがとうございます」と言って頷いた。
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