第17話
扉を探し始めてから、すみれと田村は無言でひたすら順番に二つの鍵を鍵穴に差し込んでいた。
重苦しい沈黙の中、金属同士がぶつかり合う硬い音が響いている。
静かにサラサラと流れ続ける砂時計は既に半分以上が落ちていた。
「……………………」
「……………………」
そうして砂時計の砂が落ちきろうとしたその寸前で、ガチャリと鍵がピッタリはまる音が響いた。
「開きました!」
「えっと…これは…どっちの鍵でしょう…」
無意識に二人がシルヴァの方に顔を向けると、シルヴァは変わらずの笑顔で『おめでとうございます、田村様』と手を叩いた。
どうやら田村の扉が見つかったらしい。
田村は鍵穴に鍵をはめたまま、ドアノブを回し、扉を開いて中を覗いた。
扉の先は、すみれの時と同様、漆黒の闇が広がっている。
『田村様おめでとうございます。貴方は正しい扉を見つけ出すことが出来ました、今ここでゲームから離脱することも出来ますし、すみれ様の様に留まることも可能ですが、いかがなさいますか?』
シルヴァの問いかけに、すみれはそっと田村の背を押した。
「田村さん、先に行ってください。お体が心配です」
すみれの言葉を聞いた田村は驚きですみれを振り返った。
「どうして…」
「私、実は以前医療関係の仕事をしていたので、なんとなくですが…やっぱりそうなんですね」
すみれの困った様な笑顔に、田村は「はい…」と俯き、もう一度顔を上げ、「先に行ってください」と促すすみれに
「申し訳ないです…本当にありがとうございます…」
と震える声と共に頭を下げ、扉の中へと足を踏み入れようとしたその時、
フラつく田村の体を横から強引に押し退け、木村が我先へと駆け込んで来てしまったのだ。
「木村さん!ダメです!戻って!」
すみれがそう叫んだ時、木村の姿は闇の中へと消え去り、もう見えなくなっていた。
「あっ…わ、私はどうすれば…」
進むタイミングを失った田村が弱った声を出すと、その様子を静観していたシルヴァが口を開いた。
『田村様、思わぬ乱入者が割り込んで行きましたが御安心を。その扉は本来貴方のものです、どうぞ先へお進みください』
そう微笑むシルヴァに、田村はゆっくりと頷き、最後にすみれへと会釈をすると、弱々しい足取りで扉の先へと歩んで行った。
そして田村の姿が完全に闇に飲まれ、見えなくなると、開け放たれた扉は独りでに閉まり、
再びガチャリと鍵の締まる音が響いた。
すみれはそれからしばらく、いつ木村が山田の時のように扉から飛び出して来るのかとハラハラしながらも、里中の鍵で、彼女の扉を探し続けた。
真っ白な空間には、すみれを見守るシルヴァと、カラス頭の執事が柱の位置に散らばって立っており、
空間の中心では未だに里中が泣き声を上げている。
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