第14話

『この二つの鍵は、山田様が所持していたものです。その内の一つは、ご覧の通りすみれ様と紐付けられています』



「…!?確かに、でも山田さんはどうやって…彼女から…」



(一つ?)


すみれは2人の会話を聞きながら心の中で眉を寄せた。



『簡単です、山田様はすみれ様から鍵を奪ったのです。皆様が眠りについた隙に』



「そんな…!てことは、今すみれさんは鍵を持っていないということですか!?」



田村の視線にすみれは黙って頷く。



「私の鍵が無いことに気が付いたのは、山田さんが扉を開けた時でした。 山田さんの開けた扉のデザインを見て、私が一度開けた扉なんじゃないかと思いました。ですが確証が持てず…言い出すことが出来なくて…」



俯くすみれに、シルヴァはカラス頭の執事を通して再び鍵をすみれへと手渡した。



『しかし、すみれ様が事実を指摘したところで恐らく意味はなかったでしょう。ここで問題なのは"山田様自身の行動"なのです。もし、あの場面ですみれ様が"その鍵は私の物だ"と主張されたとしても、結果として山田様が扉の先へと進んでしまったとしたら同じことです』



「でも…!」



シルヴァの言葉に、すみれが反論しようとした時、その声はすぐにシルヴァによって掻き消されてしまった。



『そもそも、山田様はすみれ様から鍵を奪った時点で、最大のタブーを犯しています。山田様はいずれ、旦那様に処罰されていたでしょう』



「……山田さんの死はゲーム再開前から確定していた、ということですか…?」



震えるすみれの言葉に、シルヴァはそれまでわずかに微笑んでいた口元を、まるで獣のようにニィッと歪め、醜悪な笑みを浮かべた。



『その通りです、旦那様の目は誰にも欺けませんので』



「そ、そんな…シルヴァさんは、山田さんが死ぬと分かっていて、扉の先へと進むのを止めなかったのですか!?」



シルヴァに向かって叫ぶすみれに、シルヴァはスっと執事の慎ましい微笑みに顔を戻し、胸に手を当てた。



『すみれ様、最初にも申し上げました通り、旦那様の機嫌を損ねられた場合、その方の処遇はその都度"旦那様がお決めになる"のです。ですので、厳密に申しますと、私はあの時点で山田様が"まさか"殺処分されてしまうとは"思っても"いませんでした』



シルヴァは言葉の節々を妙に強調しながら、ゆっくりと話した。



『そもそも皆様お忘れの様ですので申し上げますが、本来、この御屋敷に招待させて頂いたお客様はこの中の"ただ一人"でございます。言い方を変えれば、その"一人"のお客様以外の方がどうなろうと私達にとってそれは関心の及ばない部分なのでございます』

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