第8話
すみれがシルヴァを見上げていることにすぐ気が付いたシルヴァはニッコリと微笑む。
『すみれ様、いかがなさいましたか』
「えっと…私達がここに来てから今までどれくらい時間が経過してるでしょうか。出来れば、今の時刻を知りたいのですが…」
すみれの申し出に、シルヴァは全く表情を変えず、『それを知ってどうするのですか?』と聞き返してきた。
「あ、えっと…」
シルヴァの初めての反応に戸惑うすみれを、シルヴァは少しの間微笑ましげに見つめていたが、左耳の黒い石がチカチカと光ると、琥珀色の瞳を一瞬瞬かせた。
『………はい、かしこまりました。すみれ様、大変失礼致しました。実は旦那様のこの御屋敷では、"時間"という概念が無いのです。ですので、こちらからすみれ様の求める正確なお答えを申し上げることが出来ません』
「時間の概念が無いってどういうこと…?」
里中の困惑する声を無視し、シルヴァは言葉を続ける。
『そこでこちらからの提案なのですが、今からこちらで皆様の為の砂時計をご用意致します。皆様の疲労も考慮致しまして、砂時計が落ちきったタイミングで一度ブレイクタイムと致しましょう。ブレイクタイム中は全ての扉が一旦消えますので、ごゆるりとお休みください』
シルヴァは言い終わると一度指を鳴らした。
すると次の瞬間、シルヴァの傍らに大きな砂時計が現れた。
『さて、ここで皆様にお伺いします。この砂時計を今すぐ動かすのか、それとも一度ブレイクタイムを取った後に動かすのか。いかがなさいますか?』
シルヴァはぐるりと参加者一人一人の顔を見渡したが、だれもシルヴァと目を合わせることはしなかった。
そして暫くの沈黙の後、結局シルヴァが答えを出した。
『皆様、特にご希望が無いようですので、こちらで決めさせて頂きます。今からこちらの扉を一度全て皆様の前から消させて頂きます。皆様は再びこの扉が現われるまでの間、休息をお取りください。それでは、私達も一旦これにて失礼いたします』
シルヴァがそう言って一礼すると、カラス頭の執事達も次々と消えていき、左右の壁一面に設置された扉はそれぞれが一度開き、再び鍵の閉まる音をたてた後にスっと溶ける様に消えていった。
扉もシルヴァ達も居なくなり、白い空間に再び参加者だけになったことに、参加者は皆、安堵のため息を漏らした。
シルヴァ達の独特の存在感と圧は、参加者に強い緊張感を与えていた。
「はぁ〜…もう…意味が分からないよ…」
座り込んだ里中に、すみれは困ったように微笑んだ。
「時間の概念が無いって結局どういうことなんだよ?」
誰に言った訳でもない木村のボヤキに、山田が舌打ちをした。
「チッ、それを今言うくらいなら、何故あの執事に聞かなかったんですか?」
明らかに苛立っている山田の棘のある言葉に、木村はカッと顔を赤くして怒鳴った。
「はぁ?なんだてめぇ!わざわざ喧嘩売るような態度取りやがって!!」
「喧嘩?私は純粋に疑問を口にしただけです。私達は全員が同じ状況なんです、ここが何処だかも分からない、あの執事共が人間でない"何か"なのは分かっているが、それ以外相手のことなんて何一つも分からないんです。それなのに、分からないもの同士でアレがどうだコレがどうだと言ったって時間の無駄です」
「じゃあお前がアイツに根掘り葉掘り聞けば良いじゃねーか!!偉そうに足元見やがって、自分ではなんにもしてねーくせに!!」
「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いて…。ここが何処だろうと、あの人達が何者であろうと、私達は扉を見つければここから出られるんですから…ね?全員が同じ様にストレスを感じているんです、ここは一旦休みましょう?」
若い二人の男達の剣幕におどおどとビビりながらも、田村が落ち着いた声でゆっくりと二人を諭してくれた。
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