第9話

「はっ、休む?こんなだだっ広いだけの空間で休めだなんてよく言ったもんだ」



山田は最後にそう吐き捨てるとツカツカと革靴の音を響かせ、最初に出会った時にもたれて立っていた柱まで行くと、一人離れて座った。



「……すみれさん、私達も向こうで休まない?」


「あっ、はい」


山田のいる方向とは反対側を指さした里中に、すみれは頷き、二人で適当に離れた場所まで歩くと腰を下ろした。



休むと言ってもただこうして時間をやり過ごすだけだ。



すみれと里中は隣同士に座り、特に何も話すこともなかったが、すぐに横の里中がすみれの肩へともたれかかってきた。



「里中さん大丈夫ですか?」


「うん…少し横になりたいかも…」


ぐったりとする里中の声に、すみれはずっと手に握り締めていた金色の鍵を一度床に置いた。


「私の膝で良ければですけど、頭をのせますか?」


「いいの?」


「はい、もちろんです」


すみれの膝に頭を乗せた状態で里中は床へと横たわった。



「あぁ…落ち着く〜…少し眠ってもいい?」


「良いですよ、シルヴァさん達が来たら起こしますね」


微笑むすみれに、里中は軽く頭を上げてすみれを見返した。



「ちょっと気になったんだけど、すみれさんてあの人と知り合いなの?」


「あの人?」


「あの執事の…」


里中は長いまつ毛を揺らしながら、すみれの表情を観察するように見つめる。



「シルヴァさんとですか?いえ、知り合いというか…顔見知りなだけです」


「顔見知り?」


「はい、×××ショッピングモールのレストラン街の端にカフェがあるんですけど、シルヴァさんはそこのカフェの店員さんで、よく顔を合わせてたんです」


「えっ!!あの人、人間なの!?」


「…と、私も思ってたんですけど…特にそれ以外シルヴァさんのことを知ってる訳ではないんですよ」


「そうなんだ…もうよく分かんないや…」


里中は考えるのが面倒になったのか、再びすみれの膝へと頭をのせ、寝る体勢に入った。



「はい、田村さんの言う通り今は休みましょう」



そうして二人は会話をやめ、里中はすぐにスースーと寝息をたて始めた。



すみれは里中が眠った後、暫くは他の参加者の様子を観察していたが、里中の体の温かさと規則正しい呼吸のリズムを感じている内に、自分もうとうとと眠くなってきてしまった。



そうしてとうとう里中につられてすみれも里中の上に折り重なるように眠ってしまった時点で、他の参加者もそれぞれ離れた場所で寝入ってしまっていた。



最後にすみれが体を倒し、眠りの中へと沈んでいったタイミングで真っ白な空間がゆっくりと少しずつ光のトーンが下がっていき、



人間の肉眼ではパッと目を開けた時には何も映らないくらいにまで暗くなった。



そして暫くの静寂の後、暗闇の中である人影がゆっくりと立ち上がり、ひたひたと足音を潜めて歩き出した。



歩き出したその人物は、闇に慣れた目で標的を見つめ、真っ直ぐに歩み寄っていく。



そうして足を止めたその人物は手に持っていた小さなペンライトで一瞬だけ白い床を照らし、無造作に床に放置された金色の鍵を見つけると、そっと拾い上げ、自分の懐へとしまい込んだ。

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