第17話 去りゆく春

▶時期:天徳四年(960)


白虹が太陽を貫いてから、天変が頻りに起こるようになった。陰陽頭は天文密奏を行うことができないため、晴明や十市部以忠が賀茂保憲の代わりを務めた。朝廷は天変を鎮めるために、僧侶たちに熾盛光法を修させたり、大般若経を転読させた。


天象は災いを示し続けたが、都は相変わらず平穏であった。正月の叙位では藤原師輔の息子である伊尹・兼通・兼家らが昇進した。兄弟三人以上が同時に昇進した前例はなく、師輔は栄華の極みだと感嘆した。数ヶ月後には、宮中で華やかな歌合が催された。


しかし、翌月に疫病が勢いを増し、多くの人々が命を落とした。朝廷は疫病を鎮めるためにあらゆる手を尽くしたが、疫病の勢いは止まらない。とうとう、賀茂忠行までもが疫病に罹ってしまう。


晴明と保憲は病に倒れた忠行を看病していた。保憲は丹波康頼に診察させたが手の施しようがなく、余命いくばくもなかった。晴明は病床に臥している忠行の部屋に忍び入り、法術によって彼を病から救おうとする。その時、忠行は晴明が普通の人間ではないと悟り、晴明は妖狐の血を受け継いでいることを認める。しかし、忠行が晴明を息子の弟子として受け入れてから長い年月が過ぎた今となっては、深く追求しても仕方のないことであった。晴明は懸命に法術を施したが忠行の病は回復せず、忠行は天命には逆らえないのだと悟る。


晴明は梨花に忠行の寿命が長くないことを伝え、最後の別れの挨拶を勧める。梨花は、どこの馬の骨ともわからない自分を家族の一員として受け入れてくれたこと、実の娘のように大切に育ててくれたことを深く感謝した。


保憲は天文道の成績を評価され、天文博士に任じられた。保憲は陰陽寮で初めて暦道・陰陽道・天文道の三道の博士を経験し、皆から模範的な存在として敬われた。陰陽頭と天文博士を兼ねることはできないため、保憲は陰陽頭を秦具瞻に譲った。保憲は早速晴明は得業生に推挙し、晴明は四十歳にしてようやく出世への道を拓くことができた。忠行は息子とその弟子の栄達を喜び、静かに息を引き取った。


忠行の死後、冥界の獄卒たちが彼の生前の行いについて善悪を判じていると、白雪によく似た女が映し出されていた。獄卒から報せを受けた炳霊帝君が忠行の死籍を見たところ、容貌こそ白雪に瓜二つだったものの、立ち振る舞いはまるで別人のように感じられた。炳霊は彼女が死んだはずの妹か確かめるために、平安京に降り立つことを決意する。

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