第15話 狐の婿入り
▶時期:天暦六年(952)― 天暦七年(953)
賀茂保憲が造暦の功績によって従五位下に叙された。保憲は正六位上の父忠行の位階を越えて昇進したので、父に栄爵を譲ってほしいと奏上した。彼の願いは朝廷に受け入れられ、忠行も息子と同じ位に叙された。忠行は、思いがけない幸運を喜んだ。
この叙位によって、保憲は未だ陰陽頭に就任していないにもかかわらず、陰陽頭と同等の身分になった。晴明は師匠の出世を祝福し、今が好機だと言わんばかりに梨花との結婚を願い出た。保憲は、播磨国での晴明と梨花の仲睦まじい様子を見てただならぬ関係だと察していたが、二人を尊重して口出しせずにいたのであった。
こうして、晴明と梨花は晴れて結婚することになった。都の貴族は自分の気持ちよりも相手の家柄を優先させなければならない中で、想い人と結婚することが一族の繁栄につながる晴明は幸福な立場に置かれていた。婚儀の夜、二人は感慨に耽り、初めて情を交わした。保憲が貴族として認められたこともあり、彼らが想像していたよりも華やかな祝宴が催された。
陰陽寮の生徒である晴明には夫婦だけで暮らしていける程の財産がなかったので、これまでと変わらず賀茂の家で生活していた。二人が結婚してから天変が頻りに起こり、重大な喪事の兆しがみられた。天文密奏は的中し、程なくして朱雀上皇が崩御された。この頃の天文道は相変わらず人材不足に悩まされており、晴明は未だ天文生になる夢を捨てきれていなかった。
保憲の息子である光栄が元服を迎え、陰陽寮に入った。光栄は保憲の指導の下で暦道を学ぶことになった。陰陽寮の人々は、ゆくゆくは光栄が保憲の後を継ぐのだろうと予想していた。行き場を失った晴明は、このままでは陰陽師として大成できないのではないかと不安に駆られる。保憲もまた、献身的に自分を支えてきた弟子の将来について熟考しなければならなかった。
保憲の許に、僧日延が呉越国に留学する報せが届いた。保憲にとって、唐から新しい暦法をもたらす良い機会が訪れた。彼は暦道の発展のために唐から新しい暦法を持ち込むことが必要だと奏上する。貞観の時代に宣明暦が伝来してから久しく新暦を得る機会はなく、暦道の間でも暦本の作成を巡って論争が繰り返されてきた。村上天皇はこの問題を解決するために、日延に新暦を持ち帰るよう命じた。日延が帰朝するまで、保憲は暦博士の職を離れられなくなった。晴明と保憲が日延の帰朝を待ち望んでいる間に、梨花が懐妊した。
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