第3話 闇の王の目覚め

 アランはシャスカーの言葉を聞いた瞬間、すぐに彼の動きを察知し、冷徹な目を向けた。周囲が異常なまでに静まり返り、空気が急激に重くなっていくのを感じる。シャスカーが掲げた手から放たれる暗黒のエネルギーが、遺跡の中を支配し始めた。


「闇の王よ、降臨せよ…」


 シャスカーの呪文は、アランの耳の中で何度も反響する。その言葉と共に、遺跡内の魔法陣が一斉に輝き、そこから溢れ出す漆黒のエネルギーが、壁や床を焼き尽くしていった。


 その時、アランの心の中に冷徹な決意が生まれた。教団が追い求めていた力、その正体は、ただの魔法の遺産ではない。邪悪な存在をこの世に呼び起こすための鍵だったのだ。シャスカーはそれを手にし、今、世界を変えようとしている。


「止めろ!」


 アランはすぐに反応し、杖を振りかざして強力な魔法を放つ。だが、シャスカーの呪文には一切の影響を与えられず、闇の力が一層強まり、アランたちの周囲に圧力をかけてきた。


「君が来るのを待っていたよ、アラン。」


 シャスカーは冷ややかに笑いながら、アランを見つめる。彼の目には狂気が宿っており、何か得体のしれない力を手に入れたことを確信しているようだった。


「この力を使えば、教団の支配下で新たな時代を築けるんだ。」


「お前の思い通りにはさせない!」


 アランはその言葉に対し、さらに強力な魔法を放つ。しかし、シャスカーはそれすらも無視し、呪文を続ける。


「闇の王よ、現れよ。命令する、我が手の中に。」


 その瞬間、遺跡の中で強烈な震動が起こり、魔法陣の中心から巨大な黒い影が現れた。それは、まるで空間を引き裂いて出現したかのような、恐ろしい存在だった。長い爪と鱗を持つその姿は、明らかに人間の形を超越していた。まるで異世界から這い出てきたかのような、その存在には言葉では表せないほどの圧倒的な力が宿っていた。


「これが…!」


 アランはその姿を見て、何が起きたのかをようやく理解する。それは、教団が目指していた「闇の王」――古代の邪悪な存在、封印されていた魔王そのものだった。


 闇の王はゆっくりとその巨大な目を開き、周囲を見渡す。その目は血のように赤く、アランたちを見下ろしているかのようだった。


「我が力を感じろ、弱者よ。」


 闇の王の声は、アランの体内にまで響いてきた。その声が発せられるたびに、周囲の空気が圧迫され、アランはその威圧感に一瞬押しつぶされそうになる。


「そんな…」


 マルティナが恐怖に震えながら言った。その声には、ただの魔物とは違う、異次元から来た存在に対する畏怖が込められていた。


「この力…どうやって…」


 アランは歯を食いしばりながら、必死で冷静さを保とうとする。闇の王が現れたことで、今や状況は完全に彼らの手の届かないところにあるように感じられた。しかし、アランの目にはまだ希望の光が残っていた。守護としての力が、彼の中に確実に眠っている。それが今、目を覚まそうとしているのだ。


「マルティナ、後ろに下がれ!」


 アランは魔法を使い、マルティナを守ろうとする。しかし、闇の王はすぐにその攻撃を放ち、周囲の空間が歪み、強烈な闇の波動がアランに向かって迫ってきた。


「くそっ!」


 アランは自分の杖を振り、魔法の盾を展開して防御しようとするが、闇の王の力には敵わない。その力は圧倒的で、アランの防御をものともせずに弾き飛ばした。


「これは…無理だ。」


 アランは心の中で、そう感じた。だが、何かが彼の中で目を覚ます。守護としての力、そして彼が背負う使命。それが彼を再び立ち上がらせた。


「まだだ。」


 アランは自分を信じ、強く息を吐く。彼の体から、以前には感じたことのないほどの強大な魔力が溢れ出してきた。


「魔法の盾、レイ・アストラ!」


 アランは強力な光を放つ盾を召喚し、闇の王の攻撃を防ぎながら一歩ずつ前進していく。彼の力が、ついにその真価を発揮し始めた。

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