第2話 影の遺跡

 アランとマルティナが遺跡の深部に進んでいくと、突然、深い闇の中から強烈な魔力が感じられた。アランは瞬時に身構え、周囲を警戒する。その魔力は、ただの魔物のものではない。彼の直感が告げていた。


「気をつけろ、マルティナ。何かが近づいている。」


 彼の声には緊張が漂っていた。マルティナはアランの後ろにぴったりと寄り添いながら、前方に目を凝らす。遺跡の内部は不気味なほど静かで、足音すら響かない。突然、床に何かが落ちる音がした。二人は同時に反応する。


「何だ?」


 アランは杖を構え、魔力を高める。すると、ひときわ強い魔力が遺跡の奥から流れ出してきた。それは、どうやら物理的なものではなく、意志を持った存在のようだった。アランの目が鋭く光り、冷徹な表情を作る。


「この遺跡には、ただの遺物ではない、もっと大きな力が眠っている。」


 マルティナもその場の空気が変わったことに気づき、神妙な面持ちでアランに続いた。遺跡の奥、さらに深く進んでいくと、ついにその源にたどり着いた。そこには、巨大な魔法陣が浮かび上がっており、その中央には何かがうっすらと浮かんでいた。


「これは…」


 アランは、その魔法陣をじっと見つめる。魔法の力が強すぎて、目の前の空間が歪んでいるように感じられる。それは、ただの禁書の存在ではなく、もっと深刻なものであることは確かだった。


「遺跡が…封印されている。」


 マルティナが口を開く。アランはその言葉に何かを感じ取った。教団が狙っているものは、遺跡の中に眠る禁書だけではない。ここに隠された真実が、教団の目的に密接に関わっていることを、彼は確信していた。


「教団は、この封印を解こうとしているのか…?」


 アランが低く呟くと、突然、その魔法陣が激しく輝き、遺跡の内部が揺れた。次の瞬間、闇の中から、無数の影が現れ、アランとマルティナに迫ってきた。


「来たか…」


 アランは冷静に構え、杖を振る。魔法の盾が周囲を覆い、無数の影の攻撃を弾き返す。しかし、その中から一体、異常に強い魔物が現れた。それは、普通の魔物のように見えたが、目の前に立った瞬間、その存在感の違いを感じ取ることができた。


「こいつはただの魔物じゃない。気をつけろ。」


 アランはマルティナに警告を飛ばすと、その魔物に向かって魔法を放った。だが、魔物はそれをものともせず、空間を歪めながら、アランに向かって襲いかかる。


「くそ…」


 アランは冷徹な表情を崩さず、さらに強力な魔法を放つ。その瞬間、魔物の姿が歪み、そして消え去った。だが、それが終わったわけではなかった。周囲から次々に新たな影が現れ、二人を取り囲んでいく。


「まだ終わらない。」


 アランは無言で振り返り、マルティナを守るように立ち続ける。彼の目に宿るのは、冷徹な決意だ。この先に待ち受けるであろう試練を乗り越えるため、彼はすでに覚悟を決めていた


 遺跡の奥深く、アランとマルティナは魔物と対峙していた。巨体を持つその魔物は、血のように赤い瞳を持ち、牙をむき出しにして吠えた。その足元からは、不気味な魔力が立ち上り、周囲の空気がひどく重く感じられる。


「くそっ、こんなところで…」


 アランは冷徹な目をしながら、魔法杖を握り直した。魔物の力が尋常ではないことはすぐに分かった。彼は軽く息を吐き、すぐに呪文を唱える。


「レイ・シルヴァ!」


 杖先から放たれた光の刃が、魔物の体に直撃した。しかし、魔物はその攻撃をほとんど無視するかのように、無慈悲に迫ってきた。次の瞬間、アランは素早く身をかわし、魔物の爪が空を切った。


「動きが速すぎる…」


 アランは冷静に魔物の動きを観察しながら、さらに魔法の準備をする。一方、マルティナは一歩後ろで、弓を構えながらサポートのタイミングを見計らっている。


「マルティナ、準備して!」


 アランは一瞬マルティナに目をやり、再び魔物に目を戻す。魔物が一瞬間をおいて、その鋭い爪を振りかざした。


「避けろ!」


 アランの声と同時に、魔物の爪が突き刺さる。しかし、マルティナはその瞬間、魔物の動きを読んで矢を放つ。その矢は魔物の目を捉え、命中した。だが、魔物はただの傷ついたような素振りを見せ、ますます怒りを増した。


「くっ、やっぱり簡単じゃないな…」


 アランはすぐに魔法の盾を展開し、攻撃を防ぎながら、頭をフル回転させていた。魔物の力は増していく一方だが、アランはどこか冷静さを失わなかった。それは、彼がかつて経験したことのある闇の力のような気配を感じていたからだ。


 突然、遺跡の床が震え、周囲の壁が鳴り響く。それと同時に、空気の温度が急激に下がった。


「何だ?」


 マルティナが身震いをしながら言った。アランはその異常な空気を感じ取り、背後に何かが迫ってくるのを察知した。


「後ろだ!」


 アランは一瞬で振り返り、強力な光の障壁を展開。そこから現れたのは、魔物ではなく、ひとりの男の姿だった。


「お前は…!」


 アランの目に、見覚えのある顔が浮かんだ。それは、教団の高位の僧侶――シャスカーだった。


「まさか、お前が…」


 シャスカーは微笑みながら、アランを見つめる。


「残念だが、遅かったな。もうすぐこの遺跡に眠っていた力が解放される。」


「力?」


 アランはその言葉に疑念を抱いた。シャスカーが何を言っているのか理解できなかった。しかし、すぐにその答えが目の前で明らかになった。


 シャスカーは手を掲げ、周囲の空気が一気に変わった。魔物が力を取り戻したように、再びその目に異常な赤い光が宿り、周囲の暗闇が一層深くなった。


「これが…教団が追い求めていた力…!」


 アランはその時、全てを理解した。教団が探し求めていたのは、単なる禁書ではない。それは、古代の魔法――すなわち、邪悪な力を解放する鍵だったのだ。


「お前の手の中にある力が、この世界を変える…」


 シャスカーの言葉に、アランは微動だにしない。彼の守護としての力が、今まさに目覚めようとしていた。


 闇の力が完全に解放された瞬間、遺跡内の魔法陣が輝き出し、アランの足元にひび割れた魔法の網が広がっていく。その瞬間、アランは最も重要な決断を下す。


「マルティナ、引け!」


 アランは一気に魔法の力を解放し、周囲の魔物を圧倒的な力で消し去る。だが、それだけでは終わらなかった。シャスカーは笑いながら、次の呪文を唱え始める。


「さあ、闇の王よ、降臨せよ…」

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