第3話 流行りの奇妙な噂
魔法使いの喧嘩の仲裁をした翌日、私は街のとある商人の男から相談を受けていた。
相談はただ話を聞いてそれっぽい受け答えをするだけだから楽な仕事だけどその内容はたいていろくなものではない。
「実はこの頃、街で盗人の被害が相次いでまして」
「ふーん。でもそういうのって私が出ることじゃなくない?」
ただの泥棒なら一般市民でもなんとかなる話だ。
わざわざ私が駆り出されるようなことじゃない。
「まあ最後まで話を聞いてください。盗人の姿を見たものがいるのですが、それがどうも奇妙でして」
「奇妙ってどんな」
「盗人は小柄な体躯、フードとローブで身を隠していて顔は暗くてはっきりとは見えませんでしたが頭頂部に獣の耳のような三角形の何かが伸びていたというのです」
獣の耳が生えた人間ねぇ……
それだけ聞くとまるで人狼みたいだ。
「つまり『人狼が盗みを働いた』ってこと?」
「真偽は定かではありませんが、その可能性は否定できません」
人狼なんてそんなおとぎ話じゃあるまいし。
……って言いたいけど聖女なんてものがいるんだから本当にいても別におかしくはないか。
「さらに盗人はとても身のこなしが軽く、建物の壁を伝うように駆け登っていったとか」
商人は盗人に関する情報をさらに語った。
又聞きの割にはずいぶん詳しいな。
「自分が見たわけでもないのに詳しいね」
「情報の共有は商人の基本ですから」
なるほどね。
学のない私にはなかった発想だ。
「被害を受けた店には共通点が一つありまして、それはどれも食べ物を扱っているということです」
食べ物を扱う店を狙う盗人ねぇ……
盗人なら普通金品とか売って金になる物を狙いそうなものだけど風変わりなものだ。
「貴方的には盗人はどんな人だと思う?」
「そうですね……食いつないで日々を生き延びることで精一杯、金品を盗まないところからその価値を理解できていないぐらいに学が浅いと推察できます」
商人はこれまでの被害の傾向から盗人の人物像に関する仮説を立てた。
そこまで考えられるなら話は早い。
私が出なくても解決できそうだ。
「貧民街にいけばその盗人がいるんじゃないの?」
「そんな!貧民街に赴くなど私にはとてもできません」
リビエルの街にはかなり小規模ではあるが貧民街がある。
罪人や失業者といったわけありの人間が集められたそこはお世辞にも治安がいいとはいえないこの街の中でも指折りに危険な場所だ。
私も何回か訪れたことがあるけど私が聖女じゃなかったら死んでいたかもしれないぐらいの場所だし、商人がビビるのも無理はない。
ましてや金持ちの商人なんて貧民街の人間からしたら目の敵にされてもおかしくない。
「しょうがない……私が貧民街まで行って盗人を探してみる」
「ありがとうございます聖女様、これは私からのほんの気持ちです」
ああ、やってしまった。
なんで私はいつもこういうことを引き受けてしまうのだろう。
商人も私がこういうと見越していたかのよつに懐から金貨を出してきたし。
さては謀られたな。
相談を終えた私は貧民街へと向かうべく聖女の衣装に着替え、さっき貰った金貨とガベルを懐に忍ばせて教会の外へと出たのであった。
『力』の聖女は癖が強い 火蛍 @hotahota-hotaru
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