覚醒

第1話

煙草の先からユラユラ昇る煙はまるで誰かの浮遊する意識の様。



それなら灰皿代わりの空き缶に落とされた白と黒の灰は屍になった身体だ。



そして天井に渦巻きながら昇る紫煙は――…誰かの人生。

ふわりと消えたらもう同じものは二度と現れない、儚い夢。



「爽大、お前も行くか?」



煙草臭い兄貴の部屋で一服している時、たまに俺はそんな漠然とした考えを頭の中に巡らせる。



「どうしよ。寒いし」



最後の一口の煙を名残惜しげに吐き出した俺に兄貴の謙心が意地悪く笑いかけて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る