第3話 恋、爆誕
水曜日、放課後。私はいつもガラガラな図書室の受付カウンターでいつも本を読んでいる。
図書室は昼がピークで、放課後は数人程しか来ないのでとても退屈だ。退屈だとは言ったものの、図書室なんて静寂という言葉が似合うくらいに静かだ。唯一聞こえるのは、ペラペラと話している人の声ではなく、ペラペラとめくられる紙の音だけ。
「・・・ぉぃ」
最近は、くそうるせぇ女が度々訪れてくるので退屈さは少しなくなった。が、彼女の目的は私をいじめることらしい。
「・・・おい」
そしてさっきから私の目の前で腰に手を当て、偉そうに立っているのは、くそうるせぇ女こと
「おい、ブス女」
「私の名前は
「チッ・・・ムカつく」
そう言うと彼女は私が手に持っていた本を奪う。すると彼女の顔が徐々に赤くなった。
「これ・・・女同士の・・・しかも濃厚な・・・なんでこんなもの持ってきてんだよ!!」
「起塚さんに襲われる前にしっかりそういう知識を身につけないといけないと思って読んでたんです」
「あたしがあんたを襲うわけないでしょ! 女同士なんて興味ないし。第一にあたしはビッチじゃない」
「私のこと、好きなんでしょう?」
「ちゃうわい!」
彼女は、図書室を突き破る勢いで大きな声を出した。
よほど頭に血がのぼったのか、顔が赤い。
「あたしを怒らせたらどうなるか、わからせてあげる」
そう言って彼女は、図書室を後にした。
それからというもの、いじめが徐々にエスカレートし、ついには私の荷物などがなくなっている。探せば見つかるので、まだ大丈夫な方だ。
こういうことは初めてなので、どう対応すればいいのかがわからない。先生に言いつければいいのか、あるいは、両親に言ってどうにかするか。
しかし、私は何もしない。
それはなぜか。起塚千明の顔が推しと全く似ているからだ。
私の推しというのは、アイドルを育成するゲームに出てくる間宮千明ちゃん。ストレートなボブヘア、タレ目、スレンダー体型な女子高生。静かにしているとどこかクールさ漂うキャラだが、実際には活発で頑張りやで夢に忠実で―――一言で表すなら、かっこかわいい女の子だ。
正確には起塚千明にいじめられているのではなく、
「木下」
廊下を歩いていると、担任の高橋先生に呼び止められた。
「なんでしょう」
「新しいチョークを持ってきてくれないか。全部折れて短いから板書しにくくてな」
「わかりました」
新しいチョークが置かれている場所は、一階の物置にある。階段降りたすぐ横にある。物置へ入ろうとすると、後ろから声をかけられた。
「あら、奇遇ね」
「起塚さん、奇遇ですね」
「・・・」
「・・・」
何も話してこなくなって、ただニヤニヤしているので、そのまま気にせず入った。
入った途端、中に起塚の取り巻きらしき女子が水の入ったバケツを持っていた。
バシャ。
目の前から水をかけられ、方向感覚を失ってしまい、何らかにぶつかってしまった。
「やば」
すると、起塚らしき女が焦った声を発した後、私は倒れた。いや、押し倒された。
「んむっ!?」
その時、私の唇に何か柔らかい物が強く押し付けられていた。
目を開けると、鼻息が伝わる距離に起塚がいる。
そして、あの柔らかい物の正体は起塚の唇だったのだ。
つまり今、私は起塚に押し倒され、キスされている。
慌てて私から離れる起塚は、顔を赤くして、物置から立ち去って行った。
私、起塚に襲われたのか?
「木下さんが棚にぶつかった時、上にあった重い荷物が落ちてきたので、慌ててちーが庇った感じですね」
状況を説明してくれたのは、私に水をかけた女だった。混乱しているのか、口調が丁寧になっている。
「なるほど」
「・・・」
「・・・」
心臓がうるさい。
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