06-02: 諸君は、わたしのために、死ぬのだ!
わたしはイザベラ・ネーミアである――。
新しい時代が始まったことが告げられていることを、私は確信した。
「ヴェーラ・グリエール中将の後任として、本日付けで第一艦隊司令官に着任した。わたしは
鋼鉄の剣のような言葉だ。その音素たちが、私たちを丁寧に突き刺していく。
「わたしには諸君らの考え、想い、その全てを見ることができる。なぜなら、
だが、それは良い――ネーミア提督は続けた。
「わたしは諸君らに死ねと命ずる立場である。故に諸君らは諸君らで見極めるが良い、このわたしを」
ゾクッとした。仮面の奥の目が、私を見ていた。錯覚じゃない。勘違いじゃない。今確かに、イザベラ・ネーミア提督は私を見た。金縛りにあったかのように、私は硬直した。
「
その言葉にまた講堂がざわめいた。この場の全員の脳裏に、あのクリスマス・イヴの戦いからの一連の戦闘が思い浮かんだことだろう。
「わたしは、しかし、国のために死ねなどとは言わない。命を捧げろなど、そのような
ネーミア提督は淡々と述べる。
「無論のこと、ヴェーラやレベッカが登場する以前の、無策ゆえの無惨な敗戦の歴史を繰り返すつもりは
その言葉のトーンは終始落ち着いていたが、私は呼吸を
「諸君の命はわたしが握る。死にたくなければ、今すぐ荷物をまとめて去るが良い。何の迷いも
優しいようで厳しい言葉だった。去らなかったことに言い訳をさせないぞという強い意志だ。その終始落ち着いたトーンが、なお一層言葉の圧力を高めている。
「我々
数秒の間――。
講堂は完全な沈黙に落ちている。
「
ネーミア提督は演壇に両手を付き、私たちを見回した。
また、私と目が合った。思わずよろめいた私をレオナがさり気なく支えてくれる。
「だいじょうぶ?」
「ありがと、だいじょうぶ……」
「ならいいけど」
レオナはそれからも私の背中に軽く手を添えていてくれた。
「ふっ……」
ネーミア提督は再び背筋を伸ばすと後ろで手を組んだ。
「だがな、わたしはそれをして、国家国民の
カワセ大佐が止めに入るのではないかと思うようなことを、イザベラ・ネーミア提督は口にした。国のために戦い、国のために死ぬ。ヤーグベルテの人々なら、誰もが多かれ少なかれそう考えているはずだ。だが、ネーミア提督は公の場でその思想を否定した。
唖然とする他にない。
ネーミア提督は声のボリュームを一段上げた。
「諸君は覚悟せねばならぬ。自らの死を覚悟せよ。友との死別を覚悟せよ。これからは死を前提に生きろ。生ぬるい生を捨てよ。我々は、誰よりも死に近いのだ。その自覚を持ち、死にたくないのならば、
闇……を感じた。深すぎる闇だ。レベッカが炎を照り返す鋭利な剣だとすれば、ネーミア提督は夜の水底のように暗い。重く冷たい闇だ。
「わたしからは、以上だ。なにか質問はないか?」
質問なんてできる雰囲気ではない。なのに、ネーミア提督はなぜか私を見ていた。絶対に私を見ている。
「新人
「ひぇっ!?」
思わず変な声が出た。
「きみはいずれ指揮官になる人間だ。何か言え」
「あ、あの、その」
酸欠の金魚のようになる私。
「て、提督はヴェーラ……じゃなかった、グリエール提督と並ぶほどのお力をお持ちと理解しても、よ、よ、よろしいですか」
「無論だ」
迷いなく肯定してくるネーミア提督。
「そして、わたしは彼女ほど甘くはない」
鋭い声だった。
そしてまた「ふっ」と赤い唇の端を吊り上げると、マントを
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