06: 女神の登壇
06-01: わたしは、イザベラ・ネーミアである
それから約三ヶ月が経過した。今日はちょうど四月一日。エイプリルフールなどと言って小さな嘘が
この三ヶ月の間、レベッカたちは合計七度の出撃と、四度の戦闘を経験した。その中で、
しかし、一週間前の戦闘では、エディタたちの練度が急激に上昇したのがはっきりとわかった。犠牲者を一名も出さず、
にも関わらず、
コーヒーを胃の中に流し込みながら、アルマが大きな
「戦闘のデータ解析で連日寝不足なんですけどー」
アルマがぼやく。そう、私たちは本来二年生になってからやる戦闘データの解析作業を進んで手伝っていた。いくらジークフリートやアレスの助力があるとはいっても、全部のデータをAIに丸投げするわけにもいかない。
ブルクハルト教官がローカルに構築したAI・ユミルにデータをクレンジングさせて、秘匿データを隠蔽した形でアレスを経由してジークフリートに投げる。返ってきた暗号のようなデータをさらにユミルに渡して、解析結果を得る、みたいなことをした上で、私たちは様々な数値を割り出すのだ。
実はこの解析はほとんどAPのアップデートに使われているらしい。そうすることで、参謀部も自分たちの立案した作戦の
「
私は制服のブラウスを着ながら言った。
今日は日曜日だったが、候補生は全員が早朝に叩き起こされた。ちなみにレニーは私たちが目を覚ますより前に部屋を出ていってしまっている。今は戦闘解析の他、APの調整なんかもやっているらしい。
また、一年半後に控えたレニーの卒業に合わせて配備される戦艦のためのあれこれもやっているとのことだ。戦艦に関しては機密事項ということで詳しくは教えてもらえなかったけど。
「さて、行くよ、アルマ」
「へぇい」
レオナとは寮の玄関で待ち合わせだ。愛用のショルダーバッグを持って、私は部屋を出る。アルマが出ると、442Hzの擦過音と共にドアが閉まった。
「おはー。昨日ぶり!」
「お前ら毎日会ってるじゃん」
「だから昨日ぶりさ!」
朝から元気なレオナと、心底げんなりしているアルマの対比が面白い。
周囲にいる同期や先輩たちも笑っている。レオナは本当にとことん目立つ。今や誰もが彼女のことを知っていた。
「さぁ、マリー。手を繋いでいくよ」
「う、うん」
ちょっと恥ずかしいが、実際の所もう慣れた。事あるごとにレオナは私にスキンシップを
「春だねぇ」
後ろをついてくるアルマが
「しのぶれど、色に出にけりわが恋は、か」
「いやいや、ぜんっぜん、しのんでないし!」
レオナの呟きを速攻で切って捨てるアルマである。
「しかしほんと、おまえらなんなん。あたしだってマリー抱きたいのに」
「ぶふっ」
公衆の面前でそんなことを言われて吹き出す私。
「冗談きついよ、アルマ。私だってまだマリーを抱いてないよ」
「え、そうなの?」
「ちょちょちょっと待って。そういう話題、ここでする!?」
思わず止めに入る私。私たちと同じ目的地に向かって歩いている候補生たちが、クスクスと笑っている。
講義棟に着いたのは
「おはよう、みんな」
レニーが手を振ってくる。ハンナ先輩はレニーに隠れるようにしてペコリと頭を下げた。私たちに、というより、他の候補性たちに対して恥ずかしがっているのだろう。
「急に何の話でしょうかね」
レオナが探りを入れる。が、レニーもハンナ先輩も首を振った。
「私たちもお仕事中に突然って感じだったから」
「最近、カワセ大佐が、すごく忙しく、してらっしゃった、から」
「新しい作戦か何かかな……」
私が言うとアルマが「あり得る」と指を鳴らす。
そうしている間にも私たちは講堂に到着している。IDカードを
二つ前の席にレニーがいて、そのさらにいくつか前の列にハンナ先輩の姿が見えた。二人はオーラ的なものが違うので、どこにいてもすぐに探すことができた。
現れたのはヤーグベルテで知らぬ人はいない参謀、マリア・カワセ大佐だ。立体投影されている上半身、そして顔。黒髪に縁取られた白い顔は、この世ならざるものを
「本日、急に集まってもらったのは人事についてのお話をしておきたかったからです」
人事?
私はアルマとレオナを見た。二人は首を
「長らく第一艦隊の司令官の椅子が空いていましたが、この度、新司令官が着任されます」
講堂がどよめく。随所に立っている教官たちの表情も動いたことから、知っていたのは極々一部だけだったのかもしれない。
「第一艦隊司令官として、本日、イザベラ・ネーミア少将が着任されました」
どよめく講堂。カワセ大佐はじっと黙ってそれが静まるのを待った。
「レベッカ・アーメリング中将と共に、あなたたち
ま、まぁ、そうなるか。となると、92年カルテットの
私たちはまだそもそも配属さえ決まっていないからどうということはないにしても。それはそうと、エディタやトリーネたちもこの発表を聞いているのだろうか。現在、戦闘からの帰路にあるはずだが。
「組織についての詳細は後に文書で周知します。各自確認するように。それでは、イザベラ・ネーミア少将」
カワセ大佐はそう言ってステージの袖を振り返る。
私たちは誰もが無言でその一挙手一投足に注目する。カワセ大佐はネーミア少将と入れ替わるようにして、舞台袖に消えた。
演壇まで進み出たネーミア少将の口角がツイと上がった。
「わたしは、イザベラ・ネーミアである」
それは絶対的な自信に
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