05-06: 戦闘評価
結果は知っての通りの大惨敗。敵の艦船を一隻も撃沈できないまま、こちらは全滅だ。
「
重巡ペルセウスがひたすら暴れ、私たちのチームが完膚無きまでにボコボコにされている。モニタルームから出てきたレオナが手を叩く。
「さすが沈黙の聖女。
「エディタ先輩たちはもっと強かったわ」
「ま、マジっすか」
アルマが引いている。
「エディタ先輩たちも、私やレニーもだけれど、実際の戦場をあなたたちより遥かに多く
「見てるだけでも楽しかった!」
早々に離脱したレオナが興奮した面持ちで言う。
「レオナ的にはハンナ先輩はどう見えていたの?」
「常に全速航行しながらトラップを張りまくっていた」
レオナによれば、あの遅延魚雷の他にも電磁パルス機雷、レーザー発射装置と
「セイレネスは操る
ハンナ先輩は自分が乗っていた筐体を軽く叩く。
「でも、あのクリスマス・イヴの戦いを見てわかったと思う。私たちは動揺したら
「はい」
実質何もさせてもらえなかった私は素直に頷いた。
「レベッカに守ってもらえているうちは強い、ということですね」
「そういうこと」
ハンナ先輩はそう言って微笑んだ。グッと惹き込まれるような微笑だ。青とも緑ともつかない美しい瞳が、薄暗い部屋の照明を受けてキラリと光る。
「でもアルマもマリーもさすがよ。マリーは私の攻撃を何度も耐えたし、アルマもレニー艦隊からの一斉射に耐えたし」
「耐えるだけでは勝ちはつかないからなぁ……」
アルマがぼやいた。そうなのだ。耐えたところで反撃できなければ戦場の
「戦術に
レニーが自分の
「もっと落ち着いて状況を把握できるようになれば、マリーもアルマも、私なんかには負けないと思う」
「レニーを超えられるなんて」
私が言うが、レニーははっきりと首を振った。
「今の戦闘データを見ると、数値的にはあなたたちのほうがずっと上よ。ほら」
「うわ、ほんとだ」
レニーの
「攻撃力はともかく、防御力関係が見たことない数値になってる」
「どれどれ?」
その数値は確かに見たことがない。従来のAPの時の三割増しくらいだろうか。しかしそれでもハンナ先輩やレニーには歯が立たなかった。
「三年と経たずにあなたたちも戦場に出るわ。その時までにこの数値を限界まで上げておく必要があるの。何が敵になるかわからないから」
「そのためにも」
モニタルームから出てきたブルクハルト教官が会話に参加してきた。
「少なくとも戦術面ではこのAPは役に立つと思うよ。実際の戦闘データを全てフィードバックしてあるから。でも、リアルな戦闘は予想外のことがてんこ盛りだ。僕のAPでもそこまではなかなか再現できていない。そのへんは、そうだな、実際の戦闘をこのシミュレータを通して一度でも多く見学することだ。多少不謹慎ではあるけどね」
「それはカワセ大佐のご判断によりますけど」
レニーが言う。
「教官からご進言なされますか?」
「そうだね。クリスマス・イヴの戦闘のこともあるし、事態は動くべき時なのかもしれないね」
ブルクハルト教官は早速
「あの」
レオナが少し遠慮がちな声を発した。
「教官や先輩は、クリスマス・イヴの戦いをどう評価されていますか?」
「鋭いこと訊くね」
ブルクハルト教官が苦笑する。
「亡くなった七名の
仕方ない、か。少し切なくなる。
「レベッカがいつまでも守ってくれるわけじゃない。レベッカのためにも君たちが前に出なければならないんだ。レベッカ不在の戦場でも
「しかし、アーシュオンの
私が言うと、ブルクハルト教官は頷く。
「確かに取得されてるデータは確実にマイナーバージョンアップがなされていることを証明している。厄介なことだけど。さらなる新兵器開発の噂もあるし。ん、来たかな」
「来た?」
私たちは一斉にドアの方を見た。ドアが
「やほ。若手が集まってると聞いて遊びに来たよ」
「お疲れ、様、です、トリーネ先輩」
ハンナの口調が元に戻った。APの話ではなくなったからだろう。レニーが
「戻っていらしたんですね」
「うん、さっきね。年末年始は調査委員会が大変だったよ」
「調査委員会?」
「うん、クリスマス・イヴのアレ。なんであんな結果になったのかとか、そういうのをお歴々に尋問されてさ。カワセ大佐のおかげで無罪放免。あーよかったねって、さっきまでエディタたちとご飯食べてたんだ」
勝ったはずの戦いでもそんなことをされてしまうのか。
私は
トリーネはそんな私の肩を叩きつつ、自分の
「実はさっきのバトル、教官からリアタイで情報が送られてきてたんだよ。それを
「そんなこともできるんですね」
私は素直に驚く。
「マリーたちへの総評としては、落ち着け、だね」
少し遠い目をするトリーネ。
「私たちももっと落ち着いていれば、七人も同期を死なせることはなかったんだ」
「しかし、あの状況では――」
レニーが言いかけたが、トリーネは首を振ってそれを止める。
「仕方なかった、というのが軍としての評価になったけど。仕方ないで殺された子たちには何と言ったら良いのかわからない。もしかしたら、その仕方ないには私たちも入っていたかもしれない」
トリーネは自分自身の身体を抱いた。その目はどこか
「でも、私たちは生き残った。だから次もまた出る。あの子たちの犠牲を無駄にしたくないから。戦いのたびに犠牲者は出ると思う。私たちカルテットだって全員無事でいられる保証なんてない。だから、みんなには私たちの戦いは一つ残らず必ず活かして欲しいんだよ」
それが君たちの生存可能性の上昇につながる――トリーネはそうも言った。
「
実戦を経験したトリーネの言葉にはかなりの説得力があった。
アルマが筐体に寄りかかっては離れるという謎の行動をしながら呟いた。
「
「SNSの生み出した怪物よ」
レニーが答える。
「ノイジーマイノリティにその他大勢がぶら下がって作られた姿なき悪意。集合体故に責任感もなく、文字で人を殺すことすら
「訴えちゃえばいいのに」
「そうも簡単にいかないのよ、アルマ。でも、ヴェーラを失って傷付いている提督に、あまりにもひどいのよ」
レニーらしからぬ口調だった。そこでトリーネがレニーの肩を抱いた。
「そこまでそこまで。
トリーネはそう言ってニッと笑うと、颯爽と立ち去った。
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