04-02: あなたたちは、そこにいるだけでいい。
しかし、事態は悪化の一途を辿る。
対空戦闘に苦戦していた所に、
「レベッカ……どうして助けないの」
助けられる命を助けないの?
トリーネ班の
カタログスペックを信じるなら、駆逐艦以下の艦艇でも、通常の対艦ミサイルや機関砲ではそう簡単に沈まない。しかし、最新鋭通常兵器である
『エディタ班、輪形陣を崩すな! ナイトゴーントを追い回せ!』
『トリーネ班、このまま突っ切る! 旗艦を狙う!』
それしかない。勢いのままに突っ込んで旗艦を一撃するしかない。
「どうする、どうなるんだ……」
アルマがイライラと三色の髪の毛を掻き回している。私たちは揃って祈る。
敵は二個艦隊、総計九十隻超。こちらは全部で四十隻超。セイレネスによる防御力がなければあっという間に終わっているところだ。
「レベッカ、お願い……!」
祈るしかない。レベッカが歌ってくれるのを。
その時だ。
私の視界から色が消えた。
触れ合ったレオナの体温がなければ、私は気絶していたかもしれない。
頭の中で弾けて頭蓋内をずたずたに引き裂いていった波。
トリーネ班の大破艦がトドメを刺されたのだとアルマは言った。アルマも苦しそうに頭を抱えていた。レオナは目を閉じて歯を食いしばっている。
「断末魔だ」
「断末魔?」
「理論的にこういうことが起きるという論文が出ているんだって、父さんに聞いた」
レオナは苦しげに息を吐く。
「
「断末魔に強い依存性だって?」
アルマが顔を上げた。まるで徹夜明けのような表情だ。
「そんな
「真偽のほどはこの戦いが終わったらわかると思う……」
レオナはまた私のふとももに倒れ込んだ。頭痛に耐えるように歯を食いしばるレオナを見て、私の胸が熱くなる。
「レオナ、ベッドで寝た方が」
「そうはいくものか」
レオナは強い口調で否定した。
「みんな必死でやってる。レニーやハンナ先輩だってきっと今、青くなりながら必死でやってる。そんな中で、寝てなんていられない」
「でも、熱が」
「そろそろ解熱剤を使える。飲めば二時間くらいは落ち着く」
強い意志と責任感を感じて、私はそれ以上何も言えなかった。レオナが持参してきた解熱剤と水を用意して、レオナに飲ませる。
その時、私たちはまた強烈な頭痛を立て続けに感じた。
トリーネ班の大破艦残り二隻も轟沈させられたのだ。
その後、エディタの配下の一隻が
『第二艦隊――』
唐突に、レベッカの無機質な声が響き渡った。
『ご苦労さまでした。後は私が始末をつけます』
その直後、
その数秒後に映像が回復した時には、あれだけ上空を好き放題にしていたアーシュオンの攻撃機たちが壊滅していた。空に黒い染みを残して、その過半が叩き落とされていた。
『モジュール・ゲイボルグ、
ウラニアの主砲が二度、斉射された。その砲弾はまっすぐに
二隻の
『全艦、防御態勢。被害の最小化に努めなさい。ウラニア、先頭に出ます』
超巨大戦艦ウラニアが、エディタたちの艦船を追い抜いて前に出た。
その間、ウラニアは砲撃を止めていた。
バランスが崩れたのは、残存していた
『ハルピュイア・イレイザ!』
――しかし、
あれほど脅威となっているナイトゴーントが、たったの一撃で全滅した。今までのレベッカだったら、こうも簡単にはいかなかっただろう。今日のレベッカは明らかに何かが違った。
先頭に躍り出た白銀のウラニアが変形を始める。艦首装甲が開き、艦体中央部の装甲が放熱板として展開する。その半球状に展開された装甲をして
「
私たちは同時に呟いた。普段は艦首に隠されている、必殺の大出力ビーム砲だ。ヴェーラの戦艦セイレーン
『
殺戮の光が艦首砲口内に集束されていく。海面が白く輝き始める。
『目標、敵艦隊全て。一撃で撃滅します』
見ていなさいと言わんばかりだ。
『
淡々と進行するシーケンス。それを止められる者はいない。敵艦隊からの砲撃は、ウラニアの不可視の壁によって無力化される。
「一撃で……」
知ってはいたが、改めてそれを目にして私は喉の乾きを強く覚えた。
映像の中にあるのは一面の残骸だった。報道用ドローンが敵艦隊の上空を我が物顔で
旗艦を中心として陣を敷いていた大型艦はその尽くが破壊されていた。輪形陣の外側にいた駆逐艦たちが慌てて旗艦の方へと移動している。生存者の確認に向かっているのだ。敵の二個艦隊には、抵抗力の一つも残ってはいないのは火を見るより明らかだった。
だが。
「ウラニアが止まらない……」
アルマが呆然とした声を発した。
白銀の超巨大戦艦ウラニアは、なおも前進を続けていた。損壊した駆逐艦を
『提督、生存者の救助を』
エディタの声が聞こえた。だが、レベッカの言葉は無情だった。
『敵の旗艦はまだ沈んでいません。完全に破壊する必要があります』
『しかし、戦闘能力は――』
『エディタ、敵が残れば、次はあなたがやられる番かもしれませんよ』
その冷たい声に、私たちは思わず顔を見合わせる。
『敵に
『しかし! 戦えない者を殺すなんて』
『あなたたちはそこにいなさい』
そうしている間にも、ウラニアは旗艦の救助を行っていた駆逐艦を砲撃で粉砕していた。海域には榴散弾の雨が降っていた。
『こんなことしたら、敵は私たちを恨みます。戦いは』
『戦争は
『しかし!』
私の想いはエディタと同じだった。私は今でもアーシュオンを憎んでいる。敵として出てくるなら容赦なんてしないだろう。だけど、戦えないアーシュオンの兵隊を殺せるかと言われれば、否だ。人として間違っていると思う。
『あなたたちの手を汚せと言っているわけではありません。あなたたちはそこにいるだけでいい』
冷徹な言葉だった。
92年カルテットの誰も、何も、言えない。
その間にも、ウラニアによる殺戮は続いた。
そしてそれからは、ほんの一瞬だった。
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