03: 出会い
03-01: レベッカ・アーメリングとの出会い
翌日から早速士官学校での生活が始まった。一年のうちはほとんど一般の士官学校と同じ教育課程とのことだったが、これがのっけから非常につらいものがあった。戦術戦略、戦史の類はとりあえず問題なかったのだが、銃火器の扱いや格闘訓練には初回から苦労させられた。
格闘訓練は基本的にはVRで行われるため怪我をすることはまずなかったが、それでも臨場感たっぷりのVRでは殴られると「痛い」と錯覚してしまうほどだ。初回の授業では正直泣いた。
艦艇に乗る
それは入学から約半月後のことだ。
屋外の射撃場で、風も吹いているというのに、拳銃で二十メートルも先の動くターゲットを次々と仕留めていくのだ。
そんなレオナの周囲に
「どこかでやってたの?」
「まさか。まだ発砲経験は三時間」
「信じられない」
こんな具合にレオナの周りには常に人だかりができていた。階級上は最下位にあたる
そしてその一方で、私もアルマもかなりのへっぽこぶりを発揮していた。とにかく当たらないのだ。二十メートルはおろか、十メートルでも当たるか当たらないか。移動されでもしたらこれがまるで
「この銃、不良品なんじゃね」
「そんなことはないと思うよ」
レオナはアルマから拳銃を取り上げると、無造作に三発撃ち放った。それら全てが正確に的を射抜いていた。
「ぐぅの音も出ないね、アルマ」
「参りました参りました」
アルマは銃を返してもらいながら、念仏を唱えるように言った。私は「ほぅ」と息を吐きつつ言った。
「ほんと、才能の塊って感じ」
「いけすかねぇ、と言いたいところだけど嫌いになれないんだよなぁ」
ひゅう、と風が吹き抜けていく。十月も半ばを過ぎている時分、この地方はもう十分に寒い。士官学校の制服だけでは心
そんなことを思ったその時、射撃場の空気が一変した。
教官たちが一斉に敬礼をした。私たちも状況を理解して、慌てて習ったばかりの敬礼をする。
私たちの視線の先にいたのは、あのレベッカ・アーメリング提督だった。ヴェーラが意識不明の今、ヤーグベルテで最も力のある軍人にしてアイドルだ。そして、おそらくは世界最強の
レベッカは、私たちAPプレイヤーの
そんな二人にダメージを与えることができたのは史上三人しかいない。レニー、アルマ、そして私だ。真偽はともかく、その時に私たちの
「今年の新入生はこれで全部ですか?」
透き通るような声だった。
レベッカが私を見た。視線が合った瞬間、私は硬直した。ヘビに睨まれたなんとやらだ。目を
「あなたがマリオン・シン・ブラックですね」
「は、はいっ」
「そしてあなたがアルマ・アントネスク」
「こ、肯定であります」
固まる私たち。あのレベッカから直接名前を呼ばれるなんて。いや、立場を考えればない話ではないが、今の私たちは完全に一般市民、いや、ただの一ファンと化していた。
「APで見かけていたから覚えています。あなたたちは
「はい!」
私自身驚くほど大きな声が出た。
「レオノール・ヴェガは、きっとあなたですね」
レベッカは私の隣りにいたレオナを見て頷いた。レオノールは敬礼と同時に「肯定であります」と応じた。レベッカはそれまでのやや厳し目の表情を突然和らげた。眼鏡の奥で新緑の瞳が柔らかく細められる。
「これから、少し授業をサボりませんか」
思わぬ提案に、私たちは顔を見合わせる。
「お昼休みが終わる前には解放します。どうですか」
提案、という形ではあったが、断る権利などなんぴとにもない。私たちは揃って敬礼をして、答えとした。教官たちも頷いている。
「ではクライスラー教官、三人お借りします」
「はっ。迎えはいかが致します、中将閣下」
「不要です。私が責任を持って送りますから」
「了解致しました」
射撃教練の主任教官が慣れた様子で応対している。レベッカは近寄りがたい雰囲気の美女と言われることもあるが、こうしてみると普段の交流がいかに気さくなものであるのかがわかる。
「その前に」
レベッカは周囲を取り巻く私の同級生たちを見回した。
「ようこそ、士官学校へ。みなさんにはこれから三年間、厳しい訓練や広報活動に
その言葉に、否応なく緊張が高まる。
「今の時点で覚悟を決めろとは言いません。ですが、これからの、第一期生たちの参戦する戦場を見て、考えてください。敵は決して弱くも生ぬるくもありません。戦場は優しくはありません。むしろ卑劣で残酷なものです。祈りは叶いません。願いは裏切られます。その中で生き延び続けるには、あなたたち自身が強くなければなりません」
レベッカの横顔が険しい。
無敵の
「アーシュオンはほとんど無限の戦力を有しているように思えるほど、私たちは間断なく脅威に
レベッカはレオナが持っていた拳銃を受け取ると、右手でくるりと回した。
「ターゲット」
レベッカが言うと、的が動き始める、同級生たちがサーッと的とレベッカの間に道を作る。
途端、立て続けに拳銃が火を噴いた。
訓練用九ミリ弾が、ターゲットの人形の頭部を一体、二体、三体と撃ち抜いていた。レオナの射撃よりも遥かに速い。ターゲットを視認した瞬間に撃っているような感じだった。
レベッカオタクを自認する私でも、レベッカが早撃ちの達人であることは知らなかった。
「こんな射撃も、役に立つ時が来るかもしれませんよ」
レベッカはそう言い、呆然としている私たちに向かって、また微笑みかけた。
「では、行きましょうか」
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