第3話 鬼ヶ島の噂

 ある日のこと。お爺さんの耳にある噂が入りました。

 どうも、阪神高速1号環状線付近において、悪い鬼が集うチーム「鬼ヶ島」が存在しているそうなのです。

 悪い鬼は夜な夜な危険運転を繰り返すそうで、一般車に迷惑をかけていたそうです。

 さらに、気に入らない車が視界に入っては、例えそれが一般車であろうともベッタベタに煽り散らかし、金品を奪って去っていくそうではありませんか。

 管轄の警察は事態を把握しているものの、彼らの異常な走り、暴走には手を焼いているらしく、チーム「鬼ヶ島」には誰も手がつけられない状態になっているというのです。

 この悪行を知ってしまったMOMO太郎の胸には、込み上げてくる熱いものがありました。そして、環状線にカチコミに行きたくなって仕方がなくなりました。MOMO太郎の体には、正義の血が流れていたのです。

「お父さん。しばらく出かけてきます」

「おや、どこへ行く気だ」

「環状線へ行って、鬼ヶ島の連中に焼きを入れに行くのです」

 お爺さんは驚きました。

「環状線へ行くなら、グランドも仕上げないといけませんね」

 話を聞いていたお婆さんは、ひっそりと用意していた、新しいハチマキ、センター出し直管マフラー、ロールケージ、フルチューンECU、LSD、グループA車両で見たことのある様なステッカー等、様々なカスタム部品をユニック車の荷台から下ろしてきました。

「どっこいしょ、どっこいしょ」

 お爺さんによる神速の技により、車体はみるみるうちに改造が済まされました。

 お婆さんは車体の両サイドにクソデカステッカーを貼り付けました。

 グランドシビック、環状仕様の完成です。

 グランドが仕上がる間に、MOMO太郎の支度は済みました。

「ロールケージを取り付けるついでに、スポット溶接の箇所も増やしてある。何よりも固く、そしてしなやかな……。いわば命を宿すボディとなった」

「なんと。ありがとうございます」

「MOMO太郎。環状線は一般車も多い。だからそのラインは目まぐるしく変化する。刻一刻と変化するラインに惑わされるな。それに加え、ボディにかなり手を入れた事で今までの挙動とはまるで違う。その対応も忘れるな」

 MOMO太郎はゆっくり頷きました。

「MOMO太郎、お前ならこのグランドを乗りこなすことができる。それと最後に一つ、渡すものがある」

 そう言いながら、お爺さんはお婆さんから、輪っかの様なものを預かり、MOMO太郎へと渡しました。

「お父さん、これは一体」

「MOMO太郎が生まれた時に持っていたモモステだ。ステアをみてごらん」

 そう言ってMOMO太郎を運転席に案内します。そこにはあるはずのステアリングがありませんでした。

「それを装着するんだ」

 MOMO太郎は言われるがままステアリングを差し込み、くるくると回しました。すると「チーン」という心地良い音が鳴り響きました。クイックリリースのステアリングに改造されていたのです。

 この音に感銘を受けたMOMO太郎は、思わず息を呑みました。先ほどまでは、内から湧き上がる闘争心を抑えるのに必死でしたが、今ではすっかり冷静になりました。

「お父さん、お母さん、ありがとうございます。それでは、行ってきます」

 二人の職人に礼をしたMOMO太郎は、キーを差し込み、エンジンをかけました。

「わかった、無頼な輩をとっちめてこい」

 お爺さんは腕を組み、頷きながらそう言いました。

「怪我だけはしないようにねえ」

 お婆さんは、MOMO太郎の頭を撫でながらそう言いました。

「これだけガチガチに固めたボディです。きっと僕のことを守ってくれます」

 そして、進化したB16Bは、ヴォォオオオ…………と、低音鳴り響く轟音を奏でながら、夜の街へと消えていきました。

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