第4話 家来、登場!

 人々は寝静まり、空には点々と星が輝く夜の街。

 そんな風情を台無しにする爆音を奏でながら、一台のグランドが街の大通りを駆けています。

 すると、一台の白黒クラウンが検問をしているのが目に入りました。

「お兄さん、お兄さん。少しよろしいですか」

 案の定MOMO太郎は停められました。何もよろしくないのですが、国家権力には逆らえません。渋々車体を側道に寄せ、お巡りさんと顔を合わせました。

「これからどこに行くのですか」

 険しい顔で、お巡りさんはそう言いました。

「環状線へ、鬼を成敗しに行くのです」

 MOMO太郎は正直に言いました。嘘偽りのない、真っ直ぐな目をしています。

「随分速そうな車ですね。山とか走るんじゃないですか」

「走りますね。以前も確か、五か六周ほど」

 MOMO太郎は開き直っている訳ではありません。単に嘘をついていないだけでした。

 お巡りさんは、内容も内容でしたので、任意同行を求めようとしました。しかし、脳裏にある予感が走り、動きが止まりました。

 このお巡りさんはかつて、MOMO太郎に振り切られたクラウンの運転手だったのです。

「……シルビアとチェイサー、この2台とは知り合いですか」

「はい。両親です」

 先ほどの件に加え、シルビアとチェイサーも知っている……。目の前のグランドは、例の“伝説”を作った幻の車体ではないか――と思ったお巡りさんは、あの日の衝撃と興奮、感動を思い出し、体が震え出しました。

「お兄さん、お兄さん。鬼を成敗というのは、鬼ヶ島を相手にするということですか?」

「そうです。その為にやってきたです」

 MOMO太郎の表情には、正義感の他に、絶対的な自信、強者のオーラがありました。

 そして車にも並々ならぬ存在感……。まさに悪魔のようなオーラが漂っていることに気がつきました。

 お巡りさんは、ついに確信しました。このグランドこそ、伝説の“白い幻影”だと。

 MOMO太郎は、地元の走り屋、お巡りさんの間では“白い幻影”として、広く認知されていたのです。

 お巡りさんは、あの夜に見た圧倒的な走りをするこの男なら、鬼ヶ島を捕まえられるかもしれない――と思いました。

「お兄さん、お兄さん。手を貸しましょう」

「これは心強い。是非お願いします」

 こうして、家来が一人増えました。

 国家権力公認で環状を走られるということは、今夜の環状での走りが、実質的に無罪放免ということになります。鬼ヶ島への勝算が格段に上がることは想像に難くありません。

 グランドとパトカーの2台で走っていると、今度は黒塗りクラウンが背後にやってきました。

「お兄さん、お兄さん。止まってください」

 黒塗りクラウンの正体は、覆面パトカーでした。

 二度も止められたことで、流石のMOMO太郎もげんなりしてしまいました。

「今から鬼ヶ島の連中を、パトカーと共に成敗しに行くのです」

 MOMO太郎の語気に宿る勇ましさは、先程より幾分か霞んでしまっていました。

「お兄さん、お兄さん。少し待っていてください」

 事態が飲み込めない覆面お巡りさんは、隣に止まっているパトカーまで寄って、そこで話をし始めました。

 しばらくして、納得した表情で覆面お巡りさんが戻ってきました。

「お兄さん、お兄さん。私も協力します」

 まさかの返事に、MOMO太郎は元気を取り戻しました。

「こちらも一緒に連れて行きましょう」

 といって、覆面お巡りさんが取り出したのは、白い箱のようなものに3本の足がついている珍妙なものでした。

「これはなんですか」

「可搬式オービスです。扱いは任せてください」

 速度違反を取り締まる可搬式オービスがあれば、環状線で暴走している車体のナンバー、運転者の顔を撮影する事ができます。その目の鋭さは、まさにキジの――否、“鷹の目”です。

 こうして、心強い三人(?)のお供を引き入れることに成功したMOMO太郎は、勇ましい面立ちに戻り、環状線へ向かって再び走り出しました。

 環状への入り口が視界に入ると、MOMO太郎のステアを握る手が少し震えました。

 料金所を通過し、本線へ合流――ついに決戦への舞台へと足を踏み入れたのです。



 

 ※この物語はフィクションです。普通に考えたら秒で捕まります。鬼退治も現実で行えば暴行です。止めましょう。

 何度でも言いますが、公道では道交法を守り、安全運転を心がけましょう。

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