第2話 グランド、復活!
お爺さんとお婆さんは、初めての子供だということもあり、大切に大切に育てました。
お婆さんはMOMO太郎の年に合わせたサイズのツナギを作り、お爺さんは夜の峠に連れ回しました。
幼少期から英才教育を施されたMOMO太郎は、普通の子供と比べて、単車や車が大好きになりました。
“
ある日のことです。MOMO太郎は、自分が生まれた(?)グランドシビックを見つめていました。
車体は、お爺さんとお婆さんの手によって、全バラが済み、ある程度の補修が済んでいました。
「この車には、いつ乗れるのだろう」
そわそわしながら車の側を歩く姿は、年相応の子供のそれでした。
お爺さんはそんなMOMO太郎の姿を見て、嬉しくなりました。
「MOMO太郎、何をしているんだい」
「お父さん。このグランドをしばきたいのです」
「ほう。よし、ここは任せなさい」
お爺さんは整備士、チューナーでした。
油が染み付いて落ちなくなった作業着に着替え、車の前へ立ちました。
「MOMO太郎、少し待っていてくれ」
お爺さんのご厚意に甘え、エンジンや足回りのセッティングを含む、全てを任せました。
数ヶ月後、スクラップのゴミ同然だったグランドは、プラチナホワイトパールに輝いており、新車同様の佇まいを取り戻していました。
「お父さん。ありがとうございます」
「どれ、エンジンをかけてごらん」
MOMO太郎はフルバケに体を収め、白銀に輝く鍵を差し込み、高揚を抑えきれずに震えてしまう手でエンジンをかけました。
するとどうでしょう。けたたましい音と共に、感じたことのない振動が身体中を駆け巡るではありませんか。
「お父さん。これは凄まじいです」
「もともと積んでいたB16Aは、水没以前にブローしていた。そこで、EK9のB16Bが一機余っていたから、載せ替えておいた。これは本田の名機だ、魂が震えるぞお」
“リミット9,000回転を誇るエンジンが咆える”。それが楽しみでならないMOMO太郎は、今すぐにアクセルをブラジルまで踏み抜きたい思いでした。
ですが、工場内でそれを行うと、直管マフラーとVTECの相乗効果で、MOMO太郎とお爺さんの耳がイカれてしまいます。
自制心を備えていたMOMO太郎は、エンジンを切りました。
「お父さん、僕は今夜、走りに行きたいです」
「よおし、今夜はお婆さんも連れて行こう」
夜になると、お爺さん、お婆さん、MOMO太郎は、まずは慣らし運転として、三人はそれぞれの愛車で山に向かいました。
山はお爺さんのホームコースなので、足回りや駆動系に問題がないかを、走りながら確認しやすかったのです。
お爺さんの愛車は、S14シルビアK's後期型、お婆さんの愛車は、チェイサーツアラーVでした。どちらもケツを振り回して遊ぶ様に改造された車でした。
MOMO太郎は、平静を保って運転していましたが、山へ入りコーナーが出現するや否や、突然2速にぶち込み「ンバァァァァァァ!」という、耳を切り裂くB16Bの咆哮、爆音と共に、猛然と山の中へと消えていきました。
突然のことに反応が遅れたことと、幼少期から鍛えられたMOMO太郎の走りのセンスが加わった結果、お爺さんとお婆さんは置き去りにされてしまいました。
カート仕込みの左足ブレーキを駆使し、ハイスピードコーナーでアンダーを殺す走りは圧倒的な速さを実現し、最早芸術の領域へと達していました。
鼓膜を突き破るようなVTECの快音が、峠中に鳴り響き、麓の民家にまで届きました。
しばらく走っていると、サイレンの音と共に、赤いランプを明滅させたクラウンが数台現れました。
「慣らしも終わった。頃合いだ、今日は帰ろう」
走る公害と化したグランドは、やっとの思いで追いついたであろうクラウンを、秒でバックミラーから消し去り、遥か彼方、暗い暗い夜の道へと姿をくらませました。
その夜は、山において、一つの伝説とされました。ですが、これはMOMO太郎伝説の、ほんの始まりに過ぎなかったのです。
※MOMO太郎はこの時点で16歳です。普通自動車免許は取得できませんから、無免許運転となります。
また、直管マフラーなども違法改造となります。山の中を猛然と消え去っていくのも重大な速度違反です。また、どの点を挙げたとしても、どれもこれも立派な犯罪です。
左足ブレーキに関しては、厳密には違反ではありませんが、まともに扱うには相応の技量が求められる技術となりますので、安易に真似をする事はしないでください。というかしないでください。
そもそも、全てにおいて絶対に真似をしないでください。
実際の公道では法律に従い、自分だけでなく周囲の為にも、心にゆとりを持ち、安全運転を心がけるようにしましょう。
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