日本昔ンバァァァ!なし

奥村 葵

MOMO太郎

第1話 MOMO太郎、誕生!

 昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが暮らしていました。

 毎日毎日、お爺さんは山へ単車をしばきに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

 ある日のこと。お婆さんが川で洗濯をしていると、川の上流から大きな影が一つ「ドンガラガッシャン、ガッシャンシャン、ドンガラガッシャン、ガッシャンシャン」と流れてきました。

 影の正体は、ベッコベコになるまでしばき回されたグランドシビックでした。

「あらあら、随分気合の入ったグランドだこと。お爺さんへのお土産に、持って帰りましょう」

 お婆さんはそう言いながら、川を流れるグランドシビックを持ち帰ろうとしますが、1トン近くもある鉄の塊を川から持ち上げるなんて事は不可能でした。

 しかしお婆さんは、偶然にも、自家用ユニック車で川へとやって来ていました。

 手慣れた操作でクレーンを操作するお婆さんの目は、まるで獲物を捉えた鷹のようです。

 川を流れていたはずの廃車同然のゴミは、熟練した職人の腕によって無事引き上げられたのです。

 お婆さんはにこにこしながら、水の滴るスクラップを眺めていました。

「ハチマキに直管マフラー、あらあら、フルバケに四点シートベルトまで。随分気合いが入っているわ。早く持ち帰って、お爺さんと夜通しバラしましょう」

 ユニック車の荷台に鉄屑を乗せ、洗い終わったフロアマットやツナギ、ヘルメットの内装などを助手席に投げ入れ、満面の笑みで帰りました。

 夕方になると、お爺さんが帰って来ました。

「お婆さん、帰ったよ」

「お爺さん、おかえりなさい。今日はお土産がありますよ」

 お爺さんはそのお土産の正体に心当たりがありました。ユニック車に乗せたままのゴミです。

「あのグランドのことだろう。なぜあんな物を買ってきた」

「いいえ、川で拾ったのです」

「拾ったァ!?」

 お爺さんは年甲斐もなく叫んでしまいました。

「お爺さんの車に使えそうな部品が、あるかもしれませんよ」

「ふむ。とにかく見てみよう」

 お爺さんとお婆さんは、そのまま表へと出て、お婆さんはユニック車を操作して荷台のゴミを下ろしました。

「これはこれは。ハチマキに直管マフラー。おやおや。フルバケに四点シートベルトまで」

 お爺さんは、新しいおもちゃを手に入れた子供と同じ目をしながら、廃車同然のグランドシビックを眺めています。

「お婆さん。このシビック、随分いい足回りだ」

「あらあら、見ただけで分かりますか」

 お爺さんは、昼は単車で山、夜は車で山に行っていたので、知識が豊富でした。

 目の前の廃車の足回りは、阪神高速1号環状線を走る為のハードなセッティングであると、瞬時に見抜いたのです。

「これだけしばき回されたグランドは初めて見た。お婆さん、エンジンは見たのかい」

「いいえ、まだです」

「それはそれは。楽しみだ」

 グランドシビックの心臓部に収まる、本田技研の技術の結晶「B16A 1.6L 直4 DOHC VTEC」を拝む為、凹みに凹みまくったボンネットを開けました。

「おぎゃあ。おぎゃあ」

 グランドシビックの心臓部には、輪っかのような物を持った元気な元気な赤ちゃんがいました。

 お爺さんとお婆さんは驚いて、大きな声を出しました。

「なんと元気な赤ちゃんだ。おやおや、手に持っているものはなんだ」

 お婆さんは泣き続ける赤ちゃんを抱え、お爺さんは赤ちゃんの持つ輪っかを手に握りました。

「お婆さんお婆さん、これは“モモステ”だ」

 赤ちゃんが持っていたのは、クイックリリースのMOMO製ステアリングでした。

 そして、MOMO製ステアリングを持っていた子ということで、この赤ちゃんはMOMO太郎と名付けられました。

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