第25話 JBCレディスクラシックで激突!
月が替わって十一月になった。十一月といえば、地方競馬の祭典であるJBC競争が行われる。
ちなみに『JBC』は『ジャパンブリーディングファームズカップ』の略。それだとJBFCじゃないのか?と思うだろう。実は元々ジャパンブリーダーズカップの名前で実施する予定であったのだ。ところが本家のアメリカから勝手に名前を使うなとクレームが来てしまった。それでやむを得ず、
日本の中央競馬ではGIというのは日曜日午後三時半頃と決まっている。かつてはジャパンカップとジャパンカップダートを同一週に行ったりという事もあったのだが、どうにも馬券の売り上げには結びつかなかったようで、結局すぐに別の週での開催に変更になっている。
海外では数日でGIレースをいくつも開催してしまうという『カーニバル方式』を取っている場合がある。最も有名なのはアメリカのブリーダーズカップだろう。二日間でなんと十四ものGIレースが開催される。
このカーニバル方式の開催にはとてつもなく大きい利点がある。それは海外からトップクラスの馬がやってくる事である。
他にカーニバル方式で有名なのはドバイミーティングと香港国際競争だろう。日本からもトップクラスの馬が毎年ドバイや香港に遠征している。日本馬の参戦はあまりないが、英国のロイヤルアスコットなんかも有名である。カーニバル方式で開催する理由は至極簡単で輸送が楽なのだ。
日本のように毎週開催となるとそのレースの為に一頭、二頭の馬を輸送しないといけない。カーニバル方式であれば、別レースに出走する馬と一緒に輸送ができるのだ。当然、その方が各段に輸送費を安くできる。
毎年世界中から名馬が集まるブリーダーズカップを参考に、地方競馬の活性化の為に日本でもブリーダーズカップをと開催される事になったのがJBC競争である。
レースは四種。2歳優駿、スプリント、レディスクラシック、クラシック。開催地は2歳優駿が門別で、他はブリーダーズカップに倣って地方競馬場の持ち回り。開催日はだいたいブリーダーズカップの開催の前後。
先の説明で、カーニバル方式の最大の利点は世界のトップクラスの馬が集められる事と述べた。それなのにブリーダーズカップの裏開催としているところに地方競馬の狂気を感じる。ブリーダーズカップの二番煎じ感を出して日本のブリーダーズカップを主張でもしているつもりなのだろうか。せめて二月前の開催であれば、ブリーダーズカップへのステップレースとして盛り上がるだろうに。
そんなJBC競争の開催日が迫ってきた。我らビヴロストもJBCレディスクラシックに出走予定となっている。今年の開催地は川崎競馬場。
今回スプリントは、昨年の同競争を勝った中央の馬が今年の春にさきたま杯(JpnI)、東京盃(JpnII)と連勝していて、完全にスプリント王者として君臨しており、そこまで盛り上がってはいない。
盛り上がっているのはクラシック。クプアとオリュンポスが出走を予定しているのだ。さらに南部杯を勝ったレッドミラージュ、春にドバイワールドカップに出走し五着と好走したパラレルワールドも参戦を表明している。
地方からもカリナン、ゴールドラッシュ、スプリングオペラが出走を予定している。なお、ラッキーユニバースは中央競馬のみやこステークスに挑戦している。
ビヴロストの出走するレディスクラシックは、ロマンブライトとスターライラが出走を予定。ウィンザーローズはロジータ記念に出走を予定している。
会社で半休を取り、深雪と両親と四人で川崎競馬場へ向かった。スターライラの馬主の吾妻さんから、紹介したい人がいると連絡をいただいたのだ。
吾妻さんが紹介したい人というのはクプアの馬主鈴鹿さんであった。鈴鹿さんは夫婦で中央競馬の馬主をされていて、旦那さんは北海道の有名な牧場を営んでいる。吾妻さんは鈴鹿夫婦両方と付き合いがあるようで、新人の馬主がいるという話をしたら会ってみたいと言ってくれたのだそうだ。
深雪も交え四人で色々と話しているうちに、スターライラとビヴロストはどちらが強いのかという話になった。正直俺はスターライラだと思っている。牝馬としては異常な強さで、これが芝馬であったらどれだけ注目されているかわかったものでは無い。
だが深雪はビヴロストを推した。吾妻さんも前走を見るにちょっとわからないと言ってくれた。すると鈴鹿さんは、じゃあ良い結果が出たら来年一緒にドバイに行きましょうと言って微笑んだ。
◇◇◇
発走時刻の十五時二十分が迫っている。
現在一番人気はスターライラ。
二番人気は昨年の桜花賞の勝ち馬でダートに転向して二戦目となるタイムセール。
三番人気は前走ビヴロストの四着だったパッキャマラード。
四番人気は前走ビヴロストの六着だったカルナヴァル。ここまで全て中央勢。
五番人気がビヴロストで地方所属馬では最も人気が高い。
六番人気がロマンブライト。以下中央勢が続き、七番人気がカミノキセキ、八番人気がベルエキップ、九番人気がフェロニエール。
ファンファーレが鳴り終わり、正面直線の左奥に設置されたゲートに各馬が収まっていく。距離千六百メートル、天候は曇り、馬場状態は稍重。
ゲートが開き、各馬一斉にゲートを飛び出した。少しばらばらとしたスタートではあったが、スターライラとベルエキップのスタートが比較的良かった。その二頭をパッキャマラード、ビヴロストが追い越していく。さらに直線半ばでタイムセールがビヴロストを抜いて先頭に立った。
明らかにペースが遅いとみたパッキャマラードがタイムセールに変わって先頭に出ようとするのだが、並びかけるとタイムセール鞍上の岩屋は抜かせまいとペースを上げる。パッキャマラードが控えると、タイムセールもまたペースを緩める。そのせいで前半の時計は非常に遅いものであった。恐らくこのままだと前残りになると、ビヴロスト鞍上岡崎は感じていた。なるべく前目の位置を取らねばと。
三コーナーを回ったところで、タイムセールはロングスパートに入った。後続も一気に差を詰め、各馬一団となっている。ビヴロストもタイムセールのすぐ横で四コーナーを回った。
ここから三ハロンの追い上げと岡崎が鞭を振ろうとした時だった。岩屋が入れた左鞭のせいで内のタイムセールが外に斜行、ビヴロストに体当たりしてきたのだ。外にも馬がおり、ビヴロストは挟まれる形に。しかも二回、三回と岩屋は体当たりを繰り返す。
残り二百メートル。
岡崎はビヴロストを押してなんとかタイムセールの嫌がらせから脱した。だが完全に追い出しが遅れてしまい、すでに先頭集団はかなり前にいる。
そこでやっと岡崎は鞭を入れた。それに応えてビヴロストは素晴らしい末脚を見せる。後方から上がってきたカルナヴァルと二頭、猛然と前の馬に襲い掛かっていく。フェロニエールを交わし、カミノキセキを交わし、ベルエキップを交わす。
残り百メートル。
パッキャマラードを交わし、残りはスターライラとロマンブライトのみ。ロマンブライトを追い越し、一完歩ごとにスターライラに追いすがる。尻尾、後脚、鞍、前脚。あと少しでスターライラに並ぶ。
だが、無常にもそこがゴール板であった。
一着スターライラ、二着ビヴロスト(名古屋)、三着カルナヴァル。
四着ロマンブライト(笠松)、五着パッキャマラード、六着ベルエキップ。七着カミノキセキ、八着フェロニエール。逃げたタイムセールはブービーの十四着だった。
これがビヴロストにとって初の敗戦となったのだった。
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