第24話 最後の一冠ジャパンダートクラシック

 『無傷の八連勝』

 翌日のニュースサイトの記事に、ビヴロストの事がそう書かれていた。もちろんメインの記事は当日行われるダートクラシック最後の一冠ジャパンダートクラシックではある。その為小さな記事ではあった。それでも、ビヴロストの事がこのように取り上げてもらえるだけで嬉しい。


 両親は早々に名古屋に帰ったが、ニュースサイトの記事を見てビヴロストの事を記事にしてくれたスポーツ新聞を買って、宝物が増えたと大喜びしているメールが入った。昨日ビヴロストにだいぶ儲けさせて貰ったと言って競馬場でも記念グッズをかなり買っていたが、それでもホクホクだったようで浅草に行って天丼を食べてから帰ったらしい。



 大井競馬場でクラシック三冠の最後の一冠ジャパンダートクラシックの日を迎えた。


 ダートの頂点を決める一戦はかなり紆余曲折を経ている。そもそもは岩手で開催されていた『ダービーグランプリ(M1)』が唯一の存在であった。ダービーグランプリ創設の当時は地方競馬は競馬場同士の横の連携がほとんど無く、そんな中で地方競馬のクラシック世代の頂点を決めるレースをやろうとなったのがこのレースだった。

 その後、地方競馬と中央競馬の交流を活発にという流れができ、地方と中央で互いに出走が可能になると、中央競馬のように三冠レースにしようという話が持ち上がり大井競馬場で『スーパーダービー(G2)』が新設となる。

 こうして中央競馬のユニコーンステークス(GIII)と合わせてダートクラシック三冠が作られた。


 ただ、残念ながらあまり盛り上がる事は無く、体系見直しが行われる事になった。

 その結果、スーパーダービーの代わりに『ジャパンダートダービー(JpnI)』が開催される事に。このジャパンダートダービーが、ダービーグランプリに代わって最高峰のレースと目されることになった。


 結局ダービーグランプリは休止に。

 だがやはりダート三冠を開催した方が地方競馬は盛り上がるのではないかという話になる。最終的に羽田盃、東京ダービーがJpnIに昇格し、ジャパンダートダービーが、ジャパンダートクラシックと名を変え新たにダート三冠が創設される事になったのだった。



 その最後の一冠ジャパンダートクラシックに東京ダービー好走のメンバーが再び集結したのだった。


 断然の一番人気は東京ダービーで圧倒的な強さを見せたアウヤンテプイ。東京ダービーと同じコースなのだから当然だろう。二番人気は同様にカリナン。


 ジャパンダートクラシックのトライアルは三つで、中央のレパードステークス(GIII)、大井の黒潮盃(SIII)、盛岡の不来方こずかた賞(JpnII)。それぞれ、グロッタアズーラ、カリナン、スプリングオペラが勝利している。それが評価され、三番人気はグロッタアズーラ、四番人気がスプリングオペラ。五番人気はレパードステークス二着のパッサカリア、六番人気はユニコーンステークス二着のイナツルヒ。

 なお、ユニコーンステークスを勝ったスターライラは昨日レディスプレリュードに出走している。


 七番人気以降は以下の通り。

 七番人気は東京ダービー六着のクロストゥーユー、東京ダービー八着のラムセスモカが八番人気。黒潮盃二着のゴールドラッシュは九番人気、不来方賞二着のラッキーユニバースは十番人気。前走で二勝クラスを勝ったゴウリキピニオンが十一番人気。

 他に南関東から四頭が出走し十五頭の出走となった。



 昨日に続き仕事終わりに深雪と待ち合わせて大井競馬場に向かった。

 昨日のビヴロストの激走の話を聞いて石野社長が行きたいと言い出し、伊達弁護士も来るという話になり、二人がそれぞれ奥さんと子供を連れて来る事になった。そのおかげで、それなりの人数になった。


 やはり話題の中心は昨日のレディスプレリュードのビヴロストの話。石野は絶対に馬主になって俺も重賞を取るんだと非常にテンションが高い。

 深雪は奥さん二人と先日入らせてもらった馬主席の話で盛り上がっている。


 伊達さんの奥さんは馬券を買った事があるらしい。だが石野の奥さんは初めて競馬場に来たらしく、電飾で彩られた競馬場を目を輝かせてキョロキョロしている。子供たちは子供たちで、まるで遊園地のように感じているようで、クレープの生クリームをべったりと口の周りに付けて、終始大はしゃぎである。


 どうにも奥さんがいると旦那の馬券というものは調子が狂うものらしい。メインレースまでに三レース勝負し、三人ともカチカチの馬券を一レース取ったのみ。深雪と伊達さんの奥さんは二レース的中。なんと初めて馬券を買うという石野の奥さんが三レースともに的中だった。


 そんなビギナーズラック全開の石野の奥さんの本命はアウヤンテプイ。というよりも全員本命はアウヤンテプイ。対抗がそれぞれ違っていて、石野の奥さんはゴールドラッシュ。理由は何となく儲かりそうな名前だから。

 俺と深雪、伊達さんの奥さんはカリナン。石野と伊達さんがグロッタアズーラ。



 東京トゥインクルファンファーレの生演奏が終わると、各馬がゲート入りを始める。天候は晴れ、馬場状態は良。


 最後にゴールドラッシュが収まって、一斉にゲートが開く。


 各馬横一線、非常に綺麗なスタートだった。真っ先に先頭に押して行ったのはカリナン。とにかくスタートからの加速力は素晴らしいものがある。

 正面直線を走っている間に後続もそれぞれ位置取りを決めた。カリナンのすぐ後ろはパッサカリアとラッキーユニバース、その後ろがゴールドラッシュ。先頭集団後方がスプリングオペラとラムセスモカ。後方集団先頭にグロッタアズーラとイナツルヒ、その後ろにアウヤンテプイとクロストゥーユー。最後方にゴウリキピニオン。


 向こう正面直線半分を過ぎたところでラムセスモカが膨らみながらラッキーユニバースの隣に上がって行った。スプリングオペラもゴールドラッシュの隣へ。


 三コーナーを過ぎると後方集団が一気に差を詰めてくる。

 先頭集団は横に広がり一線となっている。


 四コーナーを回って残り四百メートル。

 最初に抜け出したのはカリナン。ラムセスモカとゴールドラッシュの手応えが良い。三頭が一気に伸びていく。ラッキーユニバースとスプリングオペラも必死に食らいついて行く。

 大井の直線は長い。ばらばらと後続も伸びてきて、次々に先頭集団に襲い掛かっていく。


 残り二百メートル。

 ここでやっとアウヤンテプイとクロストゥーユーが伸びてくる。凄い脚で伸びてくるが、先頭のカリナンまでかなり距離がある。そのカリナンにゴールドラッシュが並びかける。ラムセスモカが一杯になり脚色が鈍る。ラッキーユニバースとスプリングオペラがラムセスモカを抜き去った。


 残り百メートル。

 一気にアウヤンテプイが上がって来る。鞍上の河原が鞭を入れながら必死に手綱をしごく。ラムセスモカを抜き、スプリングオペラに並ぶ。


 ゴール板はもう目の前。

 アウヤンテプイはさらにもうひと加速。カリナン、ゴールドラッシュ、アウヤンテプイ、三頭が並ぶようにゴール板を走り抜けた。


 電光掲示板には四着のスプリングオペラと、五着のラッキーユニバースだけが表示されている。各騎手が馬をクールダウンさせて馬場を出たところで、一着から三着の馬番が掲示板に表示され観客席から大歓声が沸き起こった。



 一着ゴールドラッシュ(船橋)、二着アウヤンテプイ(JRA)、三着カリナン(大井)、着差はハナ、アタマ。

 四着スプリングオペラ(岩手)、五着ラッキーユニバース(北海道)。

 六着以下はJRA勢が続く。六着クロストゥーユー(JRA)、七着ラムセスモカ(JRA)、八着パッサカリア(JRA)、九着グロッタアズーラ(JRA)、十着イナツルヒ(JRA)。ゴウリキピニオン(JRA)は後方のまま離れた十一着。

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