第15話 ライデンリーダー記念に出走

 今年も残すところあと数日となった日、俺と深雪は新幹線に乗って名古屋の実家に向かった。ライデンリーダー記念を観戦する為に、両親と共に笠松競馬場へ出かける為である。


 その新幹線の中で読んでいたニュースサイトに、大きなニュースが載っていた。全日本2歳優駿を勝った『アウヤンテプイ』と三着だったグロッタアズーラがUAEダービーに挑戦する事になったのだそうだ。

 まずは年明けにサウジアラビアに遠征しサウジダービーに出走。その後、アラブ首長国連邦のドバイに行きUAEダービーに出走する予定らしい。


 記事にはアウヤンテプイの血統が一緒に記載されていた。父スワーヴリチャード、母アプザイレン、母の父アフリート。


 父のスワーヴリチャードは現役時代ジャパンカップを制している。初年度からレガレイラ、アーバンシックという活躍馬を輩出しており、父ハーツクライの後継種牡馬の呼び声の高い種牡馬である。


 母父のアフリートはミスタープロスペクターの直仔。ゴールデンジャックという馬が活躍した事で日本に輸入され、桜花賞馬プリモディーネを輩出している。ただ、ミスタープロスペクター系は基本的に日本ではダート適正が高く、アフリートも活躍馬はビッグウルフやバンブーエールのようにダートに偏っている。そこから察するに、アウヤンテプイは恐らく母の父アフリートの影響が強く出ているという事なんだろう。


 こういった記事を読んでいると、今年の二歳世代はタレント揃いだと吾妻さんが言っていたのを思い出す。

 JBC2歳優駿の出走メンバーにしても全日本2歳優駿の出走メンバーにしても、圧倒的な成績で挑んできた馬が多い。勝ったアウヤンテプイも新馬戦、一勝クラスのもちの木賞と連勝して全日本2歳優駿に挑み見事勝利している。


 まだ二歳の段階だからこの先どうなるかは未知数だが、少なくとも今年の世代は今までのような中央勢に手も足も出ないというような事は無いかもしれない。さらにいえば、ウィンザーローズにしても、カリナンにしても、ラッキーユニバースにしても、馬主さんが中央競馬の馬主資格を持っていないらしい。つまり、この先も地方所属の馬として中央の馬を迎え撃つ事になるという事である。

 もしこの先もビヴロストが勝ち続けるようであれば、いずれそういった馬たちと当たる事になるという事である。



 実家に行くと、父はすっかりビヴロストのファンになっていた。あれだけライデンリーダーを語っていたのだ。何となく想像はしていた。さらに言うならば、馬券を見せびらかしてきたくらいだからお察しではあった。

 だが、まさか母までファンになっていたとは思わなかった。母に至っては、競馬なんてこれまでろくに見た事も無かったであろうに。


 父の話によると、前々走の若駒盃の時にビヴロストが走るからと無理やり引っ張っていったのだそうだ。当初は興味無いなどと連れない事を言っていたそうだが、我々にとっては孫のような存在と言われて、渋々競馬場へと足を運んだらしい。

 ただ競馬場へは行ったものの、やはりそこまで興味が湧かなかったようで、レースをつまらなそうに観ていた。そこで、勝てそうな馬の馬券でも買ってみたらどうかと薦めた所、買う単勝が次々に的中したらしく徐々にはしゃぎだしてしまった。

 若駒盃でそれまでの払い戻しをビヴロストの単勝一点に注ぎ込んで大勝ちすると、帰りの車では次走はいつだと言い出したのだそうだ。


 ところが、連れて行くんじゃなかったと父はかなり後悔している風である。何かあったのかと問うと、父はすぐにわかると呆れ口調で言って、やけ酒のようにビールを飲んだ。

 俺と深雪が首を傾げながらビールを飲んでいると、そこに母がやってきた。


「ねえねえ友作、こういうの作ってみたんだけど、どうかな?」


 そう言って母が持ち出してきたのは、黒い団扇に光るテープで『ビヴロストLOVE』と装飾された代物であった。それが二枚。それを両手に持って母は満面の笑みで左右に振る。

 父は特大のため息をついた。


 ……いつから俺の馬はアイドルタレントになったのだろう?


「そういうキラキラ光るような応援グッズは馬が嫌がるらしいよ。可愛いと思うなら嫌がるような事はしない方が良いと思うんだけど」


 そう俺が窘めると、父はだから言ったじゃないかと母を責めた。だが諦めの悪い母は口を尖らせ拗ねたような態度を取り、今度は深雪にどう思うかとたずねた。深雪も顔を引きつらせながら、気持ちは嬉しいんですけど馬は臆病で繊細な生き物だからと、やんわりと窘めた。


「もし勝ったら口取り式に出れますから、お義母さんたちもご一緒にいかがですか?」


 すると深雪の誘いに母では無く父が異常に喜んだ。どうやら母は口取り式がよくわかっていないらしい。勝った馬と記念写真が撮れるんだと説明したら、大喜びで団扇を振った。



 翌日、昼食を取った後、車で名岐バイパスをひた走り岐阜県へ。木曽川を過ぎてバイパスを降り、笠松競馬場へと向かった。ビヴロストの出走予定は十五時五十分。

 それまでだいぶ時間がある。そこで、その間に何レースか賭けようという話になった。


 父はもはや何が書いてあるかわからないくらい新聞に書き込みをして三連単馬券を購入。母はイマイチ馬券はよくわからないと言って単勝馬券を購入。俺は当てやすさと配当を考慮して三連複馬券。深雪は馬連馬券を購入。

 悲しいかな、俺と父は全く当たらず、深雪と母が当たった当たったと大はしゃぎであった。


 ◇◇◇


 陽も傾きかけ、西日に照らされて影が長くなり、いよいよメインレースのライデンリーダー記念の発走時刻が迫ってきた。

 距離は千四百メートル、ここの所雨が降らず、まだ積雪も無く、馬場状態は良。


 正面スタンド右奥のスタート位置で各馬は輪乗りをしている。

 ビヴロストは五枠五番、二番人気。一番人気はラブミーチャン記念を二着した五戦四勝のコンパウンド。



 各馬一斉にスタート。

 コンパウンドが最初からグングンと押して行きレースを引っ張る形となった。ビヴロストは先頭集団のやや後ろ目を追走。


 一コーナーを過ぎペースが落ち着く事無く二コーナーへ。

 千四百メートルのレースとしても少しペースが早いのではないかという流れで、早くも向こう正面中間を通過。そこからビヴロストは、徐々にペースを上げて先頭を走るコンパウンドのすぐ後ろにピタリと位置取った。


 かなり縦長の展開で三コーナーを回る。

 各馬ラストスパートをかけ、どの馬も鞭が入る。ビヴロスト鞍上の桃ノ木騎手は、追ってはいるがまだ鞭は入れない。


 四コーナーに差し掛かり、残り二百メートルのハロン棒が見える。

 直線に入ると桃ノ木はビヴロストに一鞭入れた。先頭のコンパウンドを内斜め前に見ていたビヴロストは、ここまでは遊びだったとでも言わんばかりに一気に加速。


 残り百メートル。

 一完歩ごとに多馬を置き去りにしていくビヴロスト。外から追ってくる馬もいるが全く差は縮まらない。

 完全に抜け出し、さらにぐんぐんと加速し先頭でゴール板を駆け抜けたのだった。



 始めて口取り式というものに参加したのだが、かなり感慨深いものがあった。父も母も深雪も非常に嬉しそうな顔をしている。


 口取り式が終わると、結城先生がおめでとうございますと挨拶をしてくれた。

 勝つには勝ったが、まだまだ素質だけで走っている状態。きっと来年のどこかで一皮剥けたような強さになると思うので、その日を心待ちにして欲しい。結城はそうビヴロストを評した。

 最後に結城先生は微笑んで言った。


「来年の秋以降には大きなレースに使って行こうと思っています。その時を夢見て良い年をお迎えください」



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

アウヤンテプイ スワーヴリチャード ハーツクライ  *サンデーサイレンス

                          アイリッシュダンス

                  ピラミマ    Unbridled's Song

                          *Career Collection

        アプザイレン    *アフリート   Mr. Prospector

                          Polite Lady

                  モルゲンロート バンブーアトラス

                          コウユーワカバ

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