夕焼け
永遠に、ここではないどこかに居続けなければならない。ここというのがいま自分の立っている座標を指すのなら、その座標を絶えず動かし続けねばならない。緯度も経度も、どちらの数字もめまぐるしく回るメーターのように、常に変動していないといけない。立ち止まってはいけない。そういう強迫観念が、おれのなかに息づいている。
夕焼けを見ると走り出したくなる。沈みゆく太陽に向かって走り続けて、水平線の果てまであの赤い空を追いかけていきたい。それができたらどれだけ幸せだろう。砂漠にいたい。アメリカ大陸を縦断したい。威勢のいい馬を駆って、ユーラシアの大地を走り回りたい。おれは移動していたい。移動し続けていたい。
空が黄金色に輝く時間がいい。太陽が去り行く直前。遥かな古代からあの空は地球の表面を移動し続けている。一度も絶えることなく。そこに断絶はない。何億何万年も前の夕空とおれたちの目指すあの空は同じなのだ。
太陽が去ろうとする。赤色が去ろうとする。黄金色が、遺伝子に刻まれた懐かしさが去ろうとする。おれはそれを追いかけていたい。だから立ち止まってはいけない。永遠に、ここではないどこかに居続けなければならない。
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