夕焼け
永遠に、ここではないどこかに居続けなければならない。ここというのがいま自分の立っている座標を指すのなら、その座標を絶えず動かし続けねばならない。緯度も経度も、どちらの数字もめまぐるしく回るメーターのように、常に変動していないといけない。立ち止まってはいけない。そういう強迫観念が、おれのなかに息づいている。
夕焼けを見ると走り出したくなる。沈みゆく太陽に向かって走り続けて、水平線の果てまであの赤い空を追いかけていきたい。それができたらどれだけ幸せだろう。砂漠にいきたい。アメリカ大陸を縦断したい。威勢のいい馬を駆って、ユーラシアの大地を走り回りたい。おれは移動していたい。移動し続けていたい。
空が黄金色に輝く時間がいい。太陽が去り行く直前。遥かな古代からあの空は地球の表面を移動し続けている。一度も絶えることなく。そこに断絶はない。何億何万年も前の夕空とおれたちの目指すあの空は同じなのだ。
太陽が去ろうとする。赤色が去ろうとする。黄金色が、遺伝子に刻まれた懐かしさが去ろうとする。おれはそれを追いかけていたい。だから立ち止まってはいけない。永遠に、ここではないどこかに居続けなければならない。
さん文 熊猫ルフォン @pankumaneko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。さん文の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます