兎々虹のばんだっ!

第17話 表情豊か

 バタン


 僕はベッドに倒れ込む。

 食事やお風呂は済ませたので、後は寝るだけ。

 倒れ込んだら疲れがどっと僕に降り掛かった。


「はぁぁ……」


 ここ最近いろんなことがあったな……。

 主に『みゅーじっくあそーと!』の事なんだけども。

 椿が最初に僕を誘ってきた時にはどうなるかと思ったけど、無事に直談判も終わったし、後は結果を待つのみ。

 新天地での生活も慣れてきたことだし、気楽に行こう。

 僕の部屋の扉が開かれたのはその時だった。


「お兄ちゃ〜んっ!」

「いって! 急に飛びかかるなよ……」


 ドアを開けてゆっくりくつろいでいた僕に飛びかかってきたこの少女。

 僕の妹だ。

 天ヶ瀬あまがせ 兎々虹つつじ

 今年小学六年生になったんだが、中々兄離れをしてくれない。

 世間一般的に見れば羨ましい事なんだろうけども、時にこれが面倒くさくて……。


「ちょっと付いてきて!」


 兎々虹は僕の手を引いて、そのまま外へ。

 こんな感じで疲れてるのに、無理やり連れ出されたりする。


「ちょ、もう八時だぞ? 今から一体何処に行くんだよ?」

「好きな漫画の新刊が出たの! 私一人じゃ買えないから、お兄ちゃんが手伝って!」


 最上級生にもなって漫画一冊も買えないのかよ……。

 ちゃんとする時はちゃんとするのに、実はまだまだ子供っぽい。

 おませって言うのかな?


 本屋が家の近くにあるので、新刊が出るたびにこうやって付き合わされる。

 特別遠い訳でも無いので別にいいんだが、疲れてる時でも変わらずこうなのだ。


「あった!」


 本屋に入るなり兎々虹が買いたがっていた漫画が置いてあり、それを手に取ると僕の元に駆け寄ってくる。


「レジ行こっ!」


 せっかちなのだろうか。

 目的の行動を終えると、すぐに僕の手を引っ張る。

 そのまま会計を済ませてやると、兎々虹はその漫画を大事そうに抱えてスキップしている。


「お兄ちゃん、早く帰ろっ!」

「はいはい…」


 無邪気なところは可愛いんだけどな。


「お兄ちゃん、面倒くさそうにしながらも、何かと付き合ってくれるとこ優しいよね」

「知ってる」

「やっぱ優しくなぁい」

「おい」


 優しいだろ。

 こんなに優しい兄は世界中探しても僕しか居ない。

 街灯が照らす夜道を歩きながら、唐突に兎々虹が言う。


「お兄ちゃん、最近なんかあった?」

「何でだ?」

「何となく」


 椿かよ。


「本当に気になるんだが?」

「いや、最近お兄ちゃんの表情が豊かだなーって」


 そんなに表情豊かだろうか。

 今までとそんなに大差ない気がするんだが?


「悩んでるような顔と、今日楽しかったんだろうなぁって顔」


 まぁ色んなことがあったし、表情豊かになってても不思議じゃないけど。

 ここ一ヶ月くらいの学校生活を考えればかなり波乱万丈だったし、本当に……大変だった。

 椿に振り回されることは今まで沢山あったが、今回は関わってる人数が違う。


「何かあったら、兎々虹に相談してねっ!」

「おう」


 頼りになる妹だなと久々に実感した。

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