第16話 一挙手一投足
「失礼します」
椿が先陣を切って、校長室の扉のドアノブを両手で開ける。
「どうぞ」という声が聞こえると共に、扉を開いた。
椿に続き順繰りに「失礼します」と言い、僕らは踏み出す。
静かな雰囲気が溢れる校長室。
流石の僕にも緊張が芽生える。
思わず見渡してしまうような空間には赤いカーペットのような床と、木目のある茶色の壁。そしてエグゼクティブチェアに座る校長と……。
「え、生徒会長!?」
思わず声を上げてしまい、口を抑える。
「し、失礼しましたっ」
如何にもそれっぽい対応しかできない自分が悔しい。
「まぁまぁ。そう緊張すること無いよ」
「そうですよ。校長の言う通り。リラックスしてください。自分が居るのは、部活の新設にあたって、生徒会への申請が居るということになっているので、ってだけです」
ビシッと背広を着こなしている校長と、背が高くて優しい笑みを浮かべる生徒会長。
自分たちよりも年上の男性二人を目の前にしても、「怖い」と思わないのは、二人のお陰だろう。
校長室の重たい空気が少し軽く感じた。
「生徒会長の
「校長の
生徒会長と校長に先に自己紹介をされてしまい、焦ってしまう。
どう切り出せば良いか分からなくなっていたところで、救世主 椿が動いた。
「失敬。一年の狭霧 椿と申します」
「同じく一年の八木 彩芽と申します」
「望月 菜花です」
「如月 柚羽です」
「長谷川 純礼と申します」
普段の馬鹿騒ぎが嘘のように、みんな礼儀正しい。
僕も遅れを取らないように自己紹介をする。
「天ヶ瀬 玲桜です」
僕は椿とアイコンタクトをして、一歩前に出る。
今回の話は僕がメインで進めることになっている。
一度大きく深呼吸をして、口を開く。
「今回お時間を取らせて頂いたのは、我々が部活の新設を試みたからです」
噛まずに行けた。
このまま失敗せずに行きたい。
「我々が新設しようとしている部活は『作曲部』です」
メインの言葉。
僕らの想いの結晶、作曲部。これを伝えたかった。
それを発せた僕は波に乗れた。
緊張する場面なのに、自然と笑顔が湧いてくる。
後ろにいる皆の感情が全て僕に託されている感覚だ。
原稿を見ないで言えるし、噛むこともない。
僕は説明を終えるまで、心に秘めていた自信全てを吐き出せた気がした。
「君たちの話はよく分かった。これから
え、質疑応答?
聞いてないんですけど!?
八木の奴、また……!
「こ、校長?質疑応答なんて聞いていないのですが……」
口を開いたのは八木。
まさか八木も把握していなかったのか……?
「君たちには部活を背負ってもらう責任がある。臨機応変の実力試しってところだね」
「正式な申請を通すために、生徒会からの挑戦状とでも言おうかな?」
なるほど……。
でも一体どんなことを……?
「君たちがこの挑戦をしようと思ったきっかけは何だね?」
「あ、えっと……」
言葉に詰まってしまう。
きっかけ…………。
椿に言われたから――――何か違う。
楽しそうだから――――も違う気がする。
「どんな部活を目指したいの?」
どんな部活…………。
マズイ。二問連続で言葉が出ない。
「具体的な目標などはありますか?」
何でだ? 特別な緊張はしてないのに、やっぱり言葉が出ない。
沢山考えて来たのに……!
作戦会議だっていっぱい……!
僕のせいで、皆の努力を
「そこはまだ決めてません!」
後ろから菜花が声を上げた。
ハッキリと大きく、そして堂々と。
「私達がアピールしたいのは、熱量です!」
「明確なきっかけなんて無いですけど! 私達は夢を追いかけたいって思ったんです!」
八木も参戦する。
「そうやって集まった私達だからこそこうやって協力できてるんです!」
「とにかく楽しい部活を目指して!」
如月さんと長谷川も続く。
目の前の皆の一挙手一投足が輝いて見える。
「僕たちは、この熱量を! 校長先生と生徒会長に伝えたいです!」
椿……!
僕だって負けてられない!
「ここに、作曲部新設の申し出を明言します!」
さっきよりももっと
「以上になります」
校長先生と生徒会長が頷くのを見て、僕は終わりの言葉を告げる。
全員で一礼。
そして僕らは校長室を後にした。
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