第15話 遂に

 次の日。

 昨日の夜は眠れな……くもなかった。

 ちゃんと眠れたし、今日起きてからも特別なドキドキはない。

 これも椿のせいだろうか。

 今までとんでもないことに付き合わされすぎて慣れてるのかもしれない。

 でも今回は椿と僕の二人だけじゃなくて、他の部員もいる。

 そう考えるとやっぱり緊張……しないな。

 緊張しないのは良いことだし、無理に考えを引き出すのは止めておこう。


 ◇


 特別なこともなく平和な午前中が終わって、昼休み。

 やっぱり特別な緊張は目覚めない。

 同クラの長谷川と菜花が如月さんのクラスに行こうと言われたので、僕はそうする。

 すると、如月さんのクラスの目の前に着くなり大衆に囲まれた。

 これはいつものことなので、今日は二人に事情を説明してもらってここを抜け出そうとしたのだが……。


「天ヶ瀬玲桜さん!校長に直談判して部活を新設しようとしてるってマジすか!?」

「作曲部ってなんですか!?」

「詳しく!」

「新聞委員会です!」


 人が僕に群がってくる。

 えとせとら、えとせとら。

 いろんなことを訊かれる。

 なんで作曲部のことを皆知ってるの?

 別に悪いことじゃないんだが、部員の誰かが話したのか?


「おやおや民衆よ、どうしたんだい?」

「椿!」


 椿が人混みをかき分けて僕たちのところにやってくる。

 いつもタイミングの良いやつだ。


「この人たち、作曲部のことを知ってるらしくて……」

「詳しく訊かれると」

「そんな感じ」


 分かってもらえて嬉しいのだが、椿はどこか上の空だ。


「なーんだそんなことね」


 こんな時まで通常運転だな。


「皆のそれは、どこ情報?」


 椿は動揺せず、人集りの中の一人に尋ねる。


「先輩から聞きました!」

「あの人が言ってました!」


 そう言って指さした方には、学ランを着た男子が二人立っていた。

 僕たちの学校は今年から制服がブレザーに変わったばかりなので、学ランを着ているということは先輩である。


「すまないねぇ。この前君たちが話しているのを聞かせてもらったよ」

「なんてったって柚羽様と純礼様が男子に連れ去られたら気になっちゃうからね」


 この人たち、如月さん達のファンクラブの人?

 いつも人集りができてたし、それ相応の容姿の持ち主だからファンクラブがあっても不思議じゃ無いけど……。


「それで、直談判ってのは?」

「具体的には?新聞委員の記事にできるかもしれないし」


 グイグイ来る先輩二人と、その後ろでたむろしている一年生の連中。


「まぁまぁ落ち着きたまえ。今からみんなの言う直談判決行だから、今日はこのへんで勘弁な」


 つよっ。


「玲桜、行くぞ」


 椿はそのまま去っていく。

 人混みをかき分け、再び六人集まる。

 椿は人集りに「じゃ」とだけ手を振り、僕らを率いて歩き始める。

 かっけぇな。

 椿の背中、すげぇ頼もしい。

 椿 率いる僕らはいつの間にか別棟。

 目の前には校長室の扉があった。


「緊張する〜」

「それな!めっちゃヤバい」

「手汗凄いんだけどっ」

「ウチは足がガタガタ」


 小声で呟く女子軍。

 一方男子軍は……。


「なんだろう。凄い冷静になれてる」

「謎に緊張しない」


 椿は踏み出して扉の前に。

 そして扉をノックし、開ける。

 遂にこのときがやって来たのだ。


「失礼します」


 そして僕らは踏み出した。

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