第14話 全速力

 月曜日の憂鬱感に襲われながら、一日中テストだなんて。

 鬼畜過ぎる。

 勉強会では他の部員に教えたり、菜花と八木を起こすので精一杯だったりと、自分の勉強がまともに出来ていなかった。

 しかし、僕の頭に任せておけばチョチョイのチョ〜イ…………とは行きませんでした。

 思っていた五倍は難しかった。

 新入生をここまでフルボッコにしますかね?

 僕がこんなに苦戦したテスト、例の連中はヤバいのでは?

 不安ばかりを抱えて、テストは終了した。


 ◇


「改めて作戦会議〜!」


 何事もなかったような雰囲気。

 怪しい……。


「その前に皆様方、テストの方は如何だったでしょうか?」

「「「「「っ……!」」」」」


 全員揃って肩をビクッと震わせ、顔を強張こわばらせている。


「い、いや〜玲桜が教えてくれたおかげで百点間違いなしだな〜! ハハッ!」


 どこぞの黒いネズミのキャラクターのような裏声で椿が言った。

「ウンウン」と頷く皆。

 ……どうやら全員酷かったらしいです。

 椿みたいな心を読む超能力はなくても、顔を見ただけで分かるもんだ。


「そ、それはそうと、作戦会議だよっ!」


 またまた頷く皆。

 これ以上問い詰める意味もないし、そもそも僕だってあまり自信がないのだから、この辺で止めておこう。

 何より結果が分かるのは通知表だけらしいし。


 今日は昭和の日。祝日だ。

 昨日一日だけ登校させるくらいなら、休みにしてほしかった。

 ゴールデンウィークが全て繋がっていれば十連休くらいあるのに、間に微妙な隙間ができる。

 今日はその祝日を利用してこの前、勉強会(?)に変わってしまった分の作戦会議をしようじゃないか!と。

 安定とでも言えるような、いつも通りのノリです。


「明日はついに直談判本番! 準備はいいか〜?」

「「「「「おーっ!」」」」」


 元気いっぱい。これでこその作曲部。


「ねぇあやめん。明日って、いつ頃何をどこで話すわけ?」


 そういえばそれを聞いていない。

 分かってるのは明日直談判決行ってことだけ。


「んふぇ? 言ってなかったけ?」


 如月さんナイス。

 これ忘れてたっぽい。


「明日の昼休み、校長室でやりま〜す!」


 いきなりだな、おい。


「話す内容は皆分かってると思うけど、ウチらの熱量だ!」

「!?」

「ぶっちゃけ活動無いとかはどうでもいい!」

「!?」

「てことでかいさ〜ん!」

「ちょ待てよ!」


 なに飄々ひょうひょうと済ませようとしてんねん。

 話すことそれだけかよ!とも言いたいが、それよりも言うべきことがあるだろ!

 ……と思ったが、言っても無駄だろう。

 キラキラの目をしている時の八木は視界が狭いし、どうしようもない。


「言いたいことはたくさんあるが、とりあえず明日は僕がカバーするから。八木たちは心構えをしっかりしておくこと。分かったか!?」

「「「「「は〜い!」」」」」


 返事だけはよろしいな。


「玲桜がここまで真面目にやってくれると助かるねっ」

「天ヶ瀬くん、その点凄く信用できるから」


 菜花と長谷川に珍しく褒められてしまった。

 なんか照れるな。


「玲桜くん、格好いいよ」


 如月さん、それってどういう……。


「勘違いしないでね。まだ一人前の男とは認めてないよ?」


 …………。


「ププっ」

「八木、何笑ってんだ?」

「いや、なんでもない。ププっ」


 皮肉が込められまくった笑いだな。

 すると、椿が僕のもとに寄ってきて言う。


「玲桜、頑張るぞ」

「おう」


 椿の目は明らかに成長している。

 前よりもっとずっと。

 中学生になったのもあるだろうが、それだけじゃないはず

 経験も増えて、学んだことも増えて。心だって強くなって。

 昨日の椿よりも二倍増しの覚悟。

 他の部員だってそうだ。

 おちゃらけで賑やかな皆にも覚悟の灯火が灯っている。

 心に秘めた膨大な気持ちは、ちゃんと見えてくる。

 ほんっと、かっけぇよ。

 僕だって負けてらんない。

 皆においてかれないようにしないと。

 止まることなんて出来ない。

 僕たちの見る未来、希望に向かって進むことしか出来ない。


「僕らの全速力に、全部委ねちゃおうぜ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る