第12話 藤棚にて作戦会議の筈が……

 まさかの『みゅーじっくあそーと!』のイラストレーターが長谷川と如月さんになるとは思ってもいなかった僕は、あれから教室でどう過ごしたら良いのか分からなくなっていた。

 長谷川なんて同じクラスだし。

 菜花も同じクラスなので、長谷川とはより一層仲が良くなっていってる気がする。

 そんな僕を置いて作曲部のグループ会話部屋までいつの間にか開設されていて、いよいよ本格的に『みゅーじっくあそーと!』の活動が近くなっていくことを感じる。


 長谷川と如月さんが作曲部にイラスト担当として加入してから最初の休日。

 早速グループ会話部屋に連絡が入ったのだ。

「『みゅーじっくあそーと!』作戦会議っ!」と。

 僕と椿と八木にとっては二回目の作戦会議だが、あれから新入りの部員が三人いる。

 菜花と長谷川と如月さん。

 場所はこの前と同じ公園の藤棚。

 前よりも開花した藤の花や青々とした野草も増えて、薫風と花の便りが僕の心を癒やしてくれる。

 来週からはついにGWが始まり、それが明けたら部活の正式な入部が認められるようになる。

 それまでに立派な部活になること、それを如何いかに学校側に分かってもらえるかが今回の作戦会議のテーマ。

 そのテーマについて八木が発言したところ、椿は一言。

『気合だーー!』と。

 そこに『一言で片付けられてたまるか』と言ったのは如月さん。

 如月さん、意外と強いのか?

 公園には待ち合わせの十分前くらいに着いたのだが、すでに八木と椿は来ていた。


「早いな、二人とも」

「ほんっと、玲桜ったら遅いんだから」


 グレるかのような八木の言い方だが、まだ長谷川と如月さんは来てないじゃないか。

 文句をつけようとしたところ、僕の両耳に二人の声が入る。


「ざんね〜ん、最後でした〜」

「遅刻で〜す」


 いきなり後ろから声をかけられて僕は「ほわっ!?」と飛び上がってしまった。

 飛び上がって後ろを見ると、そこには笑顔の長谷川と如月さんがいた。


「二人ともぉ、どこ行ってたの?」

「ちょっと自販機に〜」

「同じく〜」


 どうやら自販機に飲み物を買いに行っていて、ちょうど僕が来た時に戻ってきたらしい。


「まだ集合時間前なのに遅刻にされてるのは何故ですか?」


 僕はそこだけ納得できないんですが。


「そんな細かいことは置いといて!」


 確かに細かいことかもしれない……。


「作戦会議〜〜!」

「「「「いぇ〜い!」」」」


 パーティでも始まるんですかね?

 この盛り上がり具合はどういうことなんでしょうか。


「ということで玲桜、料理を運びたまえ」

「なんでやねん」


 椿、調子乗ってんな。


「来週に迫った校長直談判!準備は出来てるか〜!?」

「「「「おー!」」」」


 もうそんな時期なのか。


「既に校長にアポは取ってま〜す!」

「「「「「え〜〜〜!」」」」」


 嘘だろおい!

 既にアポ取ったのか!?


「ふっ、玲桜に買われたコミュ力は伊達じゃないZE?」


 マジかよ……!


「八木が事前に何かを行うなんて、宇宙人と雪男が赤鬼にツーショットを撮ってもらうのを宝くじと隕石と雷の同時に当たりながら目撃するようなものだぞ!?」

「……ぞれ、この前も聞いたんですけど?」


 この前の事前に如月さんと長谷川に事前に事情を話していた時もそうだったが、最近の八木の仕事能力がおかしい!


「宇宙人と雪男が赤鬼にツーショットを撮ってもらうのを宝くじと隕石と雷の同時に当たりながら目撃するような確率のことが二回起こっているんだぞ?驚くに決まってるだろ!」

「相変わらず失礼だね」


 八木はジトッとした目で僕を見ているが、気にしない。


「宇宙人と雪男がイカショウリャク、だか何だか知らないけど、ウチだってやるときはやるんだからっ!」


 八木も成長してるんだな。泣けてくるよ。


「ということで、来週の水曜日までに覚悟を決めるように!」


 すると菜花は、八木の言葉に疑問を持ったのか、首をかしげる。


「なんで水曜日なの?」

「なんか校長先生が『水曜日の方が良いですね』って」

「きっと校長先生も忙しいだろうしね。火曜日は祝日だし」


 おっとこれはもしや……。


「それ、月曜日がテストだからじゃない?」


 長い沈黙。

 そして。


「「「「「……?」」」」」


 全員の頭の上に浮かぶハテナマーク。

 やっぱり僕の思った通りだ。

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