第11話 イラストレーターの誘惑
なぜこんなにも口を揃えて招待を受け入れるのか。
物語的にも面白くないし、僕だって謎で仕方がない。
「「これからよろしくねっ!」」
リフレインする言葉。
オーバーヒート寸前の僕の頭。
それでも僕は足掻く。
「校長に直談判だぞ!? 馬鹿だと思わないのか!?」
「あやめんから聞いてるよ〜」
如月さん……。
「二人ともせっかく絵が上手いんだから、もっと美術部とか……」
「もともと美術部には入らない予定だったし」
長谷川……!
この二人、八木に完全に洗脳されてやがる……!
ニコニコで笑いながら話し始めた女子三人。
そんな僕に、助け舟がやって来たのはその時だった。
「あれ、玲桜じゃん。それに彩芽も」
僕が左の方をみると、そこには椿が立っていた。
立場が低くなっている僕は椿に駆け寄る。
「お取り込み中か?」
「そうなんだけどさぁ……」
僕は八木が如月さんと長谷川を作曲部に招待して、それを二人が平然と受け入れたことを話した。
だがしかし、椿に頼った僕が馬鹿だったと気づくまで、そんなに時間は掛からなかった。
「それがどうした。何か問題でも?」
諸悪の根源に助けを求める馬鹿は僕です。
「彩芽、部員集めは捗ってるかー?」
「もうバッチリよっ」
確かに、部員集めが順調に行き過ぎるのは良いことなのかもしれない。
だが、桃李しかまともな人間が居ないと不安にでもなるだろう。
少し離れたところで女子トークを始めた長谷川と八木も あんなんだし。
「それにしても何で助けを求めるような顔をしてるんだ?」
え。
僕、何も言ってないのに、椿に感じ取られた……?
「どうして……」
「だって……そんな感じの顔してたから」
どこまで勘が良いんだ、こいつ?
「違った?」
「……
「なんて?
「イグザクトリー!『その通り』って意味!」
不意に格好つけて英語を使っても、椿には伝わらない。
困ったもんだ。
「椿!この子達が『みゅーじっくあそーと!』でイラストを担当してくれるんだって!」
八木が如月さんと長谷川を紹介しようと、僕と話していた椿のもとにやって来た。
「如月と純礼さんでしょ? 知ってるよ」
こちらも紹介は不要のようだ。
菜花のときもそうだったが、共通の知り合いが多いな。
「椿くんとは五年生の時に図書委員で一緒だったから、よく話したんだよね〜」
椿の肩に馴れ馴れしく腕を置き、扇情的とも言えるような目で僕を見る。
え、僕の羨望を椿に向けようとしてらっしゃる?
「如月さん、玲桜が
「そうだねぇ、いひひ」
お前ら
「玲桜は如月さんが好きだからー。アハハ」
「なんでお前まで知ってんだよ!?」
八木には確かに言った記憶があるが、椿に言った記憶は本当にないぞ!?
「勘」
そうだった……!
椿は何故か僕の心情に関して感が鋭い……!
「お、その様子だと図星かな?」
「…………」
「まぁ付き合い長いからねー」
そんな「付き合い長いからねー」で片付けられてたまるか!
もしや、椿は宇宙人か何かなのか!?
「別に俺は宇宙人じゃないぞ」
…………。
「あ、そうだ。如月と純礼にちょっとだけ話があるんだけど……良い?」
澄ました顔してナンパかよ。
椿からは心が読まれるのに、僕は椿の考えてることが全く分からない。
「いいよ〜」
「ウチも同じく〜」
ちょっと待って長谷川と二人きりなんだが!?
「ぼ、僕もついていく!」
このままでは長谷川との間に気まずい空気感が出来てしまう。
同クラになったことがあるだけで、ほぼ友達の友達状態。
阻止せねば!
なのに……。
「
まだロボットネタ擦ってんのか、八木は?
じゃなくて!
「ちょっと待っ !!……」
「まぁまぁ落ち着きたまえ、天ヶ瀬くんよ」
後ろから肩を掴まれ、後ろに倒れそうになる。
振り返るとそこには長谷川がいた。
「私だって魅力に溢れているはずだぞ? 」
揃いも揃って長谷川まで……。
長谷川が呟いている間に椿たちはどこかへ消えてしまっている。
ヤバいって……!
「ゆっくり話そうじゃないか……」
「え………?」
僕は覚悟した。
二人きりの状態で長谷川の立ち話に付き合わされることを。
キーンコーンカーンコーン
天井から鳴る朝のホームルーム前のチャイム。
助かった……。
「あちゃー。せっかくの二人きりの時間だったのにねー」
長谷川は残念そうにしているが、僕は安堵でいっぱいだ。
別に彼女のことが嫌いなわけじゃないが、話し始めると長いことは僕がよく知っている。
「じゃ、じゃぁな〜」
追いかけてくる事は無いと思うが、出来るだけ長谷川を刺激しないように教室に戻った。
同じクラスの長谷川は、教室に戻ってからは僕に対していつも通りで、先生が来るまで彼女の友達と談笑していた。
◇
「なぁ聞いたか?」
「あぁ、聞いた」
作曲部について話している玲桜達を見ている二人の男子。
「これは特ダネになりそうだ……」
その顔は不穏に微笑んでいた。
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