第10話 納得がいかない
「やめよう」
僕はその一言だけを向けて立ち去ろうとしたが、それを八木が許してくれるわけがなかった。
「どうしたんだい、玲桜?」
八木はニヤつきながら僕を見てくる。
「知ってるのか……?」
僕がこの場を立ち去ろうとした理由、こいつが知っている……?
二人いる人集りの中心人物。
僕は片方の人物にフォーカスしている。
「そんな疑いの目を向けなくたって良いじゃない」
「修学旅行の時、言ってたじゃん」
っ……!
僕の中で全てが繋がった。
確かに僕は言った。あの時。
『ねぇねぇ〜、じれったいな〜。ハイっ、どーぞっ!』
『……如月さん』
その質問に、答えた……。
「好きな人誰?って
こいつ……知っていて尚……!
「やめよう」
「だーめっ!ほら、行くよ!」
八木は僕の手を引いて人集りの中をグイグイ進む。
僕は何も抵抗できなかった。
抵抗できないままその人集りの中心人物の元にたどり着くと、八木はその人に元気過ぎる程のテンションで話しかける。
「おっはーっ!ちょっと二人に話があるんだけど、今大丈夫?」
僕と椿が買った八木のコミュ力、こんなところでボロが出るとは……。
「あら、あやめんじゃな〜い」
「久しぶりだわね、ごーちゃん。私は時間あるわよ〜?」
「私も大丈夫よ〜。あやめんから来るなんて珍しいですから〜」
八木を親しく呼ぶこの二人。
イラストレーターとして『みゅーじっくあそーと!』に招待しようとした
「ごめんなさいねぇ、ちょっと急用ができちゃって〜」
「また後でね、みんな」
お
「さ、行くわよ」
「玲桜君、話したいことはいっぱいあるけど、今はあやめんに付いていきましょ」
「れっつらごー!」
「ご、ごー ……」
何なんだこの人たち……。
◇
「それにしても凄い人集りだったね〜」
僕らは体育倉庫の裏側に腰を降ろして一段落していた。
「いやぁ、困ったもんだよ〜」
「朝からあんなに集まらなくても良いのにねー」
さっきまでのお淑やかモードはどこかに行って、今はとてもカジュアルな感じで話す二人の女子。
片方は長谷川純礼。
もう片方の如月柚羽。
……如月さんは、僕が密かに思いを寄せてる相手でもある。
この二人は人前だとさっきみたいな感じのお淑やかな人だ。
なのに人前以外、というか椿や八木、そして僕の前ではこんな感じのカジュアル女子になる。
「いや〜、高嶺の花はスゴイな〜。玲桜には到底届かない」
「っておい!余計なことを……」
こいつ、本人の前でも平気で言いやがる。
「天ヶ瀬くん、柚羽のこと好きなの? やっぱりモテるな〜柚羽は。天ヶ瀬くん、なかなかイケメンだし、良いんじゃない?」
「長谷川まで……!」
長谷川、こいつ煽ってんのか?
八木と合わせて後でしっかり指導しておこう。
「ほぅ? 私と付き合いたいと?」
「言ってない!」
如月さんまで……!
煽られ続け、無性に弱い自分が憎くなってきた。
「玲桜くんがもっと一人前の男になったら、付き合ってあげても良いよ?」
……。
弱い自分と、この空気に耐えられなくなり、僕は話題を変える。
「そんなどうでもいい事は置いといて!」
「どうでもいい事って……」
「今日はなんで二人を呼び出したんだっけか!?」
どうでもいい事な訳あるか。
それでもこのままじゃ僕のメンタルが
そんな不安で思わず大きな声になってしまったが、正当防衛ということで良いだろう。
「おぉ、まるでウチが本題を忘れているかのような言い方だね」
「その通りだよ」
さっき何回も本題を忘れてたから心配してんだよ、こっちは。
「本題は忘れてないよ、勿論」
どうも強気のようだが、さっき話題を何回も忘れていたことは事実だぞ。
過去の都合の悪いことはすぐに忘れるタイプの八木にはそんな僕の思いは通用しない。
「昨日の夜、事前に二人に説明してある。今回の事情はねっ」
なん……だと……!
「なーに、その顔?」
猪突猛進大馬鹿野郎の八木が!事前に……!
そりゃ驚いたような顔にもなるだろ!
「だって八木が事前に何かを行うなんて、宇宙人と雪男が赤鬼にツーショットを撮ってもらうのを宝くじと隕石と雷の同時に当たりながら目撃するようなもんだぞ!」
すこし興奮気味になっている僕を、八木は怪訝な顔で見てくる。
「めっちゃ失礼じゃんっ」
言い争っている僕らを見て、今回のゲストの女子二人は微笑んでいる。
「スゲェ楽しそう」
「それな」
って、また本題からズレてるじゃんか!
何回目だよ、本当に。
「それで?奇跡を起こした八木は何が言いたいんだ?」
ここで余計なこと言ってまた脱線するのは面倒臭いので、最低限の反応で八木に返すことにする。
「二人から言ってもらった方が早いと思うから、頼んだよっ」
八木はサササッと立ち
「任されたね……」
「答えは一つ。天ヶ瀬くんにお伝えしましょう」
二人は顔を合わせる。
「「これからよろしくねっ!」」
何についての話なのか。そして結果はどうなのか。何となく察してはいた。
だが……どうにも納得がいかない……。
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